シンとトニーのムーンサルトレター第239信(Shin)
- 2025.01.14
- ムーンサルトレター
鎌田東二ことTonyさんへ
Tonyさん、今年もどうぞよろしくお願いいたします。今回のムーンサルトレターは第239信。来月でついに第240信、満20周年を迎えます。さて、2025年最初の満月が上りました。1月の満月は、アメリカ先住民の間では「ウルフムーン」と呼びならわされていました。オオカミの繁殖期が始まるこの季節、凍てついた空の下では遠吠えがよく聴こえていたからこの名前がついたと言われています。1月は狼の繁殖期で遠吠えがよく聞こえたから、というのがその理由だとか。厳冬期ではありますが、新たな生命のサイクルはすでにスタートします。春を待つ人の心も、ひとしおであったことでしょう。
『冠婚葬祭文化論』(産経新聞出版)
今回は、わたしの最新作『冠婚葬祭文化論』(産経新聞出版)の話から始めたいと思います。2024年12月19日に発売された本です。サブタイトルは「人間にとって儀式とは何か」で、著者名は「一条真也」ではなく、一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団理事長の「佐久間庸和」となっています。同書の冒頭には「わが先考 佐久間進に捧げる」と書かれています。2024年9月20日の朝、父が満88歳で旅立ちました。亡くなった父親のことを「先考」といいますが、父はまさにわたしが考えていたことを先に考えていた人でした。父は國學院大學で国学と日本民俗学を学び、冠婚葬祭互助会を営む会社を創業しました。本居宣長や平田篤胤らの国学が「日本人とは何か」を問う学問なら、柳田國男や折口信夫らの日本民俗学は「日本人を幸せにする方法」を探る学問でした。そして、父にとっての冠婚葬祭互助会はその学びを実践するものでした。
「毎日新聞」2025年1月8日朝刊
生前の父は「互助会は日本人によく合う」と常々語っていました。また、「互助会の可能性は無限である」、さらには「互助会こそが日本を救う」という信念を持っていました。最近では「互助共生社会」という言葉を使い、未来に向けた新たな社会像を描いていました。それは、わたしが長年提唱し続けてきた「ハートフル・ソサエティ」に通じます。冠婚葬祭事業の未来に対して悲観的な意見を述べる方も少なくありません。しかし、父にとって、冠婚葬祭は日本人の心をつなぎ、人々が互いに助け合い支え合う社会を作り出すための基盤であり、その可能性は無限であると信じていたのです。冠婚葬祭とは「こころ」を「かたち」にする文化です。父は、小笠原流礼法をはじめ、茶道や華道にも精進していましたが、「冠婚葬祭こそ総合芸術であり、日本文化の集大成」と常々言っていました。
冠婚葬祭とは何か
「冠」はもともと元服のことで、現在では、誕生から成人までのさまざまな成長行事を「冠」とします。すなわち、初宮参り、七五三、十三祝い、成人式などです。「祭」は先祖の祭祀です。三回忌などの追善供養、春と秋の彼岸や盆、さらには正月、節句、中元、歳暮など、日本の季節行事の多くは先祖をしのび、神をまつる日でした。現在では、正月から大みそかまでの年中行事を「祭」とします。そして、「婚」と「葬」です。結婚式ならびに葬儀の形式は、国により、民族によって、きわめて著しく差異があります。これは世界各国のセレモニーには、その国の長年培われた宗教的伝統や民族的慣習などが反映しているからです。儀式の根底には「民族的よりどころ」というべきものがあるのです。まさに、日本文化そのものです。
結婚式ならびに葬儀に表れたわが国の儀式の源は、小笠原流礼法に代表される武家礼法に基づきますが、その武家礼法の源は『古事記』に代表される日本的よりどころです。すなわち、『古事記』に描かれたイザナギ、イザナミのめぐり会いに代表される陰陽両儀式のパターンこそ、室町時代以降、今日の日本的儀式の基調となって継承されてきました。初宮祝い、七五三、成人式、結婚式、長寿祝い、葬儀、法事法要・・・・・・そんな日本的儀式が「冠婚葬祭」というわけですが、それは日本人の一生を彩る「人生の四季を愛でる」セレモニーであると言えるでしょう。なお、『冠婚葬祭文化論』は120冊目の一条本となります。まだまだ道半ばですので、これからも本を書き続ける覚悟です。
松柏園ホテルの貴賓室で
新年祈願祭のようす
年が明けた1月4日、松柏園ホテルの神殿である「顕斎殿」において、サンレーの新年祈願祭が行われました。朝、ホテルの貴賓室に入ったら、デスクの上に父の遺影が置かれていました。父は、いつも、みんなを見守ってくれています。「創業守礼」で頑張ります!顕斎殿では新年祈願祭の神事を行いましたが、わが社の守護神である皇産霊大神を奉祀する皇産霊神社の瀬津禰宜が神事を執り行って下さいました。昨年は名誉会長だった父がいましたが、今年はもういません。寂しい限りです。この日はまず、わたしが玉串奉奠を行いました。わたしは、世界各地で行われている戦争が終結すること、能登半島地震の被災地が早く復旧すること、そして社業の発展と社員およびその家族の健康・幸福を祈願いたしました。
昨年は2人で入場しました(2024年1月4日)
今年は1人で入場しました(2025年1月4日)
神事の後は、松柏園ホテルのバンケット「グランフローラ」において、サンレーグループの新年進発式が行われました。例年は新年祝賀式典として行うのですが、昨年9月20日に佐久間進名誉会長が逝去したため、今年は「祝賀式典」ではなく「進発式」としました。寂しい限りです。今年も400名を超える社員が参加しました。最初にわたしが入場しました。昨年は佐久間名誉会長と2人で入場しましたが、今年は1人での入場です。まず、「ふれ太鼓」で幕を明け、「開会の辞」に続いて全員で社歌を斉唱し、それから「経営理念」「S2M宣言」が読み上げられ、これも全員で唱和しました。
『愛する人を亡くした人へ』を掲げる
そして、いよいよ「社長訓示」です。最初にみなさんと「今年もよろしくお願いいたします」と新年の挨拶をしました。それから、以下のような話をしました。今年は、1月から業界、いや日本中にサンレー旋風が巻き起こります。まずは、拙著『[愛する人を亡くした人へ』(現代書林・PHP文庫)を原案とするグリーフケア映画「君の忘れ方」が1月17日から全国公開されます。18日には、シネプレックス小倉でわたしが舞台挨拶を行います。ぜひ、みなさんお越し下さい。わたしが『愛する人を亡くした人へ』を書いたのは18年前ですが、そのとき「グリーフケア」という言葉を知る人は業界内でもほとんどいませんでした。
現在では、業界内に「グリーフケア」の言葉を知らない人はいません。1000名を超えるグリーフケア士が誕生し、業界全体がグリーフケアを推進し、ついには映画まで公開される運びとなりました。まことに感無量です。わが社は2010年に遺族の会 「月あかりの会」を発足させ、連動して集いの場所「ムーンギャラリー」を開設しました。グリーフケアには、 同じ思いの人たちが集まれる場を提供してあげることがいちばん大切で、同じように大切な方を亡くされた方々と安心して安全に語り合うことが重要なのです。ぜひ、グリーフケア活動の先駆けとしてのサンレーのレベルの高さを示していただきたい。
財団理事長としての方針を発表
また、昨年8月、わたしは一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団の理事長に就任しました。日本人の精神文化に与える影響の大きな財団の理事長として、わたしは個人的に3つの提案を重点的に発信していきたいと思います。それは、「1.冠婚葬祭業のサービス業から文化産業への転換」「2.互助会加入の義務化」「3.互助会営業員の民生委員化」の3つです。佐久間名誉会長の「冠婚葬祭で、日本人を幸せにする」という大きな目標に向かって、「創業守礼」の精神を受け継ぎながら、これからも歩み続けてまいります。日本の未来に太陽光線のように希望の光を灯す。その日まで決して諦めることなく、名誉会長の教えを実践し続けていく覚悟です。
儀式は文化の核
「冠婚葬祭文化」といいますが、冠婚葬祭は文化そのものです。日本には、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲・武道といった、さまざまな伝統文化があります。そして、それらの伝統文化の根幹にはいずれも「儀式」というものが厳然として存在します。たとえば、武道は「礼に始まり、礼に終わる」ものです。すなわち、儀式なくして文化はありえません。その意味において、儀式とは「文化の核」と言えます。そして、儀式が「=文化の核」なら、冠婚葬祭は「日本文化の集大成」です。茶道、華道、香道といえば日本文化を代表する「三大芸道」ですが、仏式葬儀の中にはお茶もお花もお香も、すべて含まれています。
「日本文化の集大成」としての冠婚葬祭を見た場合、まず「食」の文化があります。ハレの席に不可欠なものに食事があり、現代でも冠婚葬祭の諸行事のほとんどには会食が伴います。このような場合の食事として提供されるのは、正月のおせち料理など、和食をはじめとした伝統的な料理である場合も多いです。この中には、葬儀の際の通夜振る舞い・御斎・精進落としなどのように、ただ伝統的な手順で作られるのみならず、提供される品目に条件が定められているものも少なからずあります。つまり、冠婚葬祭は食文化を現代に伝えているものであると理解できます。冠婚葬祭において、今日では食事は「家族」が集まり特別な共食の場が設けられますが、食事が人と人を結びつけるとする共食文化の理論がここには息づいています。
「食」の文化の次には、「装」の文化があります。今日の七五三を行う上で盛装することはかなり大きなウェイトを持っています。この場合、男女問わず和装を選択することは現代でも多く、成人式の振り袖や結婚式の白無垢や色打掛など、冠婚葬祭は日本人が人生の中で伝統的な服装である和服(着物)を身につける数少ない機会となっています。この他にも、初宮の産着や還暦に際しての赤い「ちゃんちゃんこ」に代表される長寿祝にあたっての衣裳、社寺の祭事における装束、葬儀の際の死装束といった特殊な服装に至るまで、冠婚葬祭と和装は不可分な関係です。今や和服をほとんど身につけない日本人にとって、冠婚葬祭はこれを着る限られた機会であり、着物をはじめとした和服にまつわる文化の大部分は冠婚葬祭に内包されています。
その他にも、「歌」の文化があります。最近は少なくなりましたが、結婚式で歌いもの(日本の伝統的な声楽のなかで地歌・長唄・端唄など)や民謡・郷土歌などの伝統的な歌謡が行われることがあります。他方、葬儀においても神葬祭での誄歌・追慕歌や仏式葬儀での御詠歌など、冠婚葬祭は現代の歌謡曲でない古典的な「歌」に触れる場です。『万葉集』の挽歌に代表されるように、故人に歌を捧げることは古来行われており、現代でも先祖祭祀や故人・先人を偲ぶために献詠歌・献詠句が行われています。冠婚葬祭は、歌の文化とも密接に関係し、これを趣味以外の実用的なものとして現代に継承する装置なのです。
「書」の文化もあります。パソコンなどを用いて容易に文字が印刷できるようになった現代にあって、冠婚葬祭、殊に結婚式や通過儀礼、あるいは葬儀の際に用意する祝儀・不祝儀袋の表書きは毛筆で手書きされることも珍しくありません。この点を踏まえれば、冠婚葬祭は書道の文化を保全すると同時にこれを内包しているといえます。さらには、「写真」の文化があります。七五三や結婚式を写真のみで済ませる事例があるなど、現代の冠婚葬祭と写真は不可分です。写真はわが国において文化としての歴史が決して深くはありませんが、近年になって冠婚葬祭が取り込んだ文化の代表例であり、成立した時代を問わず冠婚葬祭が他の文化を取り込んできたことを示しています。
わたしたちは「文化の防人」である!
もちろん、いま挙げた事例以外にも冠婚葬祭とそれを構成する要素は日本に存在する多くの文化と密接に関連しています。いかに冠婚葬祭がさまざまな文化と密接に関連し、あるいはそれを保全する役割を担っているとがわかります。まさに「文化の集大成」であり、冠婚葬祭の存在なくして日本の伝統文化はもちろん、近代になって生まれたものも含めた諸文化を論じることも難しいです。すなわち、冠婚葬祭の諸儀礼を行うことがそのまま日本文化の継承となるのです。冠婚葬祭業という礼業に携わるわたしたちは、「文化の防人」です。誇りをもって、日々の業務に励んでいただきたいと思います。
高きより見守る人は陽のやうに微笑みながらさらに進めと
「助け合い」から「支え合い」へ。わたしたち互助会は、冠婚葬祭を通して、もう一度人と人との絆を結び直す「互助共生社会」を実現したいです。亡くなった佐久間名誉会長の口癖は、「互助会システムは日本人に合う」「互助会には無限の可能性がある」「互助会が日本を救う」でした! 名誉会長の天からのメッセージを受け止め、『すすめ! 進くん」のようにさらに前に進んで行きましょう! 60周年の大きな節目に向け、わたしたちには前進あるのみです!」と訴え、「高きより 見守る人は 陽のやうに 微笑みながら さらに進めと」という道歌を披露しました。
昨年は2人で退場しました(2024年1月4日)
今年は1人で退場しました(2025年1月4日)
その後、各種表彰、各部署の決意表明、締めの「和のこえ」など一連のセレモニーが終了した後、その後、一同礼をしてから、わたしは1人で退場しました。昨年のサンレーグループは素晴らしい業績で、58年の歴史の中で最高の利益を上げることができました。父への良き供養になったのではないかと思います。作家の三島由紀夫は、著書『文化防衛論』において「文化を守る営為は文化そのものでもある」と喝破しました。冠婚葬祭業者という「文化の防人」としてこの営みに参画できることを、わたしは心の底から誇りに思います。父から受け継いだ「冠婚葬祭で、日本人を幸せにする」という大きな目標に向かって、これからも歩み続けたいと思います。
今年も、よろしくお願いいたします!
ところで、120冊目の一条本となる『冠婚葬祭文化論』はおかげさまで大変好評のようで、即重版となりました。今年も、わたしの著書や共著が多く出版される予定です。2月には、芥川賞作家で僧侶の玄侑宗久先生との対談本『仏と冠婚葬祭~日本人と仏教』(仮題、現代書林)。3月には、東京大学名誉教授で宗教学者の島薗進先生との対談本『宗教の言い分~現代日本人の死生観を問う』(仮題、弘文堂)。5月には、京都大学名誉教授で宗教哲学者の鎌田東二先生(Tonyさん)との往復書簡集『満月交命~ムーンサルトレター』(オリーブの木)。7月には、戦後80年&昭和100年記念出版となる『死者とともに生きる~慰霊・鎮魂・グリーフケア』(仮題、産経新聞出版)。以上のラインナップが予定されています。今年も「天下布礼」のために全力で頑張りますので、どうぞ、よろしくお願いいたします!
2025年1月14日 一条真也拝
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