シンとトニーのムーンサルトレター第194信(Shin&Tony)
- 2021.05.26
- ムーンサルトレター
鎌田東二ことTonyさんへ
Tonyさん、お元気ですか? わたしはいま、東京です。本日26日は満月、しかも1年のうち最も大きく見えるスーパームーンです。しかも皆既月食であります。スーパームーンの皆既月食が日本で観測されるのは1997年9月以来、24年ぶりだそうです。あいにく皆既月食は観測できませんでしたが、宿泊しているホテルの庭園から見事な満月を眺めることができました。
ホテルの庭園に上ったスーパームーンと
ところで、日本に未曾有の危機が迫っています。開催まであと2カ月を切った東京五輪のことです。日本政府は何が何でもやるつもりらしいですね。東京都などに発出されている緊急事態宣言も6月20日まで延長されそうです。
5月24日「ヤフーニュース」
国際オリンピック委員会(IOC)の“ぼったくり男爵”ことトーマス・バッハ会長は、22日の国際ホッケー連盟総会で、「誰もが五輪の夢を実現するために、何かを犠牲にしなければならない」と話したとか。この発言を知ったとき、わたしは「怒髪天を衝く」思いがしました。貴族である“ぼったくり男爵”は、日本人のことを生贄(いけにえ)とでも思っているのでしょうか?
5月25日「ヤフーニュース」
21日には、IOCのジョン・コーツ副会長が、東京オリンピック・パラリンピックを緊急事態宣言が国内で発出されている場合でも、予定通り開催すると断言しました。このときも、わたしは激しい怒りを感じました。両者の発言ともに、人命を犠牲にしてでも五輪をやると受け取れる暴言であり、日本人の感情は完全に逆なでされ、ネットは大炎上しています。当然のことでしょう。
5月24日「ヤフーニュース」
バッハ会長もコーツ副会長も、最近は何を発言しても炎上する始末。すでに日本国民の多くはIOCの正体がボッタクリの反社会的興行団体であると見抜いていますが、次から次に出てくるニュースは信じられないものばかりです。
いわく、全世界でパンデミックの収束が見えない状況下、訪日する首脳たちを「おもてなし」するため、外務省は「要人接遇関係経費」として43億6100万円を確保しているとか。開催まで2カ月を切った時点で、訪日が公表されているのは、2024年にパリ五輪を控えるフランスのマクロン大統領くらいで、アメリカのバイデン大統領は招待されていますが、参加の回答は出していません。
5月22日「ヤフーニュース」
いわく、バッハ会長をはじめとしたIOCや各競技団体の幹部は5つ星ホテルでの「貴族生活」が約束されているとか。東京都は大会期間中に「The Okura Tokyo」「ANAインターコンチネンタル」「ザ・プリンス パークタワー東京」「グランドハイアット東京」の4ホテルの全室を貸し切り、IOC関係者に提供することを保証しているそうです。「The Okura Tonkyo」には、国内最高額の1泊300万円のスイート(720平米)がありますが、IOC側の負担額の上限はどんな部屋でも1泊400ドル(約4万4000円)までと定められ、差額は組織委が負担します。
5月24日「ヤフーニュース」
ちなみに、来日する各国選手は選手村と競技会場を行き来するだけの「バブル方式」が適用され、事実上の「軟禁状態」に置かれる見通しです。しかし、中国の3000人を含めて3万人が大挙するという報道関係者はそうはいきません。選手や大会関係者は泡(バブル)で包めても、報道陣はほとんど不可能です。IOCや日本政府は報道関係者にワクチン接種を要望し、「プレーブック」(第2版)によると、入国後14日間は公共交通機関の利用を禁じ、食事も外食を禁止する方針です。しかしながら、宿泊先は組織委推奨ホテル以外でも可能であり、メディアの行動規制について不安視する声は絶えません。
5月22日「ヤフーニュース」
何より怖いのは、太平洋戦争の「学徒動員」ならぬ東京五輪の「学童動員」です。現時点で東京五輪の観客は入れる見込みですが、学校の引率により、児童・生徒らも観戦予定なのです。東京都教育委員会によるとコロナ前に策定された東京都内の公立小・中・高校などの生徒ら約81万人が観戦する計画について、「現時点で撤回する予定はない」とのこと。先日も教員らによる「集団下見」が実施されたばかりですが、保護者や教員からは不安の声が上がっている。しかも、無観客でもこの計画は実行するというから驚きです。感染が危険だから大人は無観客なのに、そこへ子どもたちが大挙して参加するとは!
もはや狂気の沙汰といえない東京五輪の強行開催について、大手新聞は一切ダンマリを決め込んでいます。それもそのはず、朝日新聞社、毎日新聞社、読売新聞社、日本経済新聞社、産経新聞社、北海道新聞社は東京五輪のスポンサーになっており、社説などで五輪批判ができない状況にあるのです。大手新聞社が雁首揃えてスポンサーになるなど前代未聞であり、「日本の新聞は死んだ!」とさえ思いました。これでは、国民が本当に知りたい情報、いや知るべき情報であっても、五輪主催者のマイナスになることは一切書けないではありませんか。いつも政権批判ばかりしている朝日とか毎日は大いに恥を知り、今こそ東京五輪の強行開催を全力で批判していただきたい!
5月21日「日刊ゲンダイDIGITAL」
しかし、テレビ業界は最近、五輪批判を展開し始めました。各ニュース番組のキャスターたちは強行開催に異議を唱えていますし、芸能界からはビートたけし氏、松本人志氏らの大御所が強い疑問を呈しています。元東京都知事の舛添要一氏、元大阪府知事の橋本徹氏、元宮崎県知事の東国原英夫氏、経済界ではソフトバンクグループ代表の孫正義会長兼社長、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長なども強行開催を疑問視しています。わたしが本物の五輪中止活動家だったら、日本国民にスポンサー企業への不買運動、アメリカ国民に東京五輪の放映権を持っている米NBCの不視聴運動を働きかけると思いますね。
バッハ会長やコーツ副会長の発言を見ても、日本は完全にナメられています。右翼が行動を起こさないのはまことに不思議で、昨年が没後50年だった三島由紀夫が黄泉の国で嘆いていると思います。三島は東大全共闘と討論しましたが、現代日本の学生たちも情けない。「渋谷で路上飲みをしている暇があったら、東京五輪断固反対のデモでもやれ!」と言いたいですね。
もう、中止だ中止
わたしの仲人で恩師の故 前野徹氏(元東急エージェンシー社長)の著書に『第四の国難』という名著があります。有史以来、わが国の国難といえば、蒙古襲来、黒船来航、第二次世界大戦敗戦の3つが上げられます。これらは、いずれも外的要因による危機でしたが、当時の人々は、見事に克服してきました。しかし、第4の国難に直面する現在の日本は、外圧というより、我々が、自ら決断する心を失ったがゆえの危機であると訴えた憂国の書です。同書は2001年に刊行されましたが、それから20年・・・・・・ついに日本に本当の国難が到来しました。
このままでは、各国の変異株が東京に集結して交配し、世界最強・最悪の「東京五輪株」が生まれる危険あります。そして、東京五輪株は人類をさらなる災厄に陥れ、日本は世界中の人々から恨まれ、蔑まれる可能性があります。それを想像すると、わたしは絶望的な気分になります。なんとか、東京五輪の強行開催を阻止しなければなりません。わたしは毎朝、「今日こそは、東京五輪中止の発表がありますように」と祈り、寝る前は「明日こそは、東京五輪中止の発表がありますように」と星に願いをかけています。どうか、わたしの願いが叶いますように・・・・・・。
5月7日「ヤフーニュース」
話は変わりますが、厚生労働省が、今年度から「心のサポーター(ここサポ)」の養成を開始しますね。これは、うつ病などの精神疾患や心の不調に悩む人を支える存在で、精神疾患への偏見や差別を解消し、地域で安心して暮らせる社会の実現につなげる狙いのようです。5月7日配信の「読売新聞オンライン」には、「心のサポーターのなり手には、心の不調を抱える人の家族や友人、同僚らのほか、地域の民生委員や企業の労務管理者などを想定している。研修で精神疾患に関する基本的な知識や対応の仕方を学び、心の不調に悩む人の話し相手になったり、専門機関への相談を勧めたりする。今年度は全国の自治体8か所前後で試験的に研修を実施する。精神疾患に詳しい専門家らが「心のサポーター指導者」となり、研修を担う。研修内容などを精査した上で、24年度から全国で本格的な養成を始める計画だ」と書かれています。
5月7日「読売新聞オンライン」
また記事には、「精神疾患になると、かつては病院などで生活することも多かった。現在はできるだけ自宅などで過ごす取り組みが進められているものの、差別や偏見は根強い。厚労省はサポーターの養成を通じて、正しい知識を普及させ、地域で安心して暮らせる環境を整備したい考えだ。厚労省によると、精神疾患の患者数は約419万人(17年)。近年は業務上のストレスなどで、うつ病と診断される人も増えている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う生活苦や孤独などから、心の不調に陥る人が増える懸念も出ている」とも書かれています。
さらに、記事には「同様の取り組みでは、自殺の兆候を見つけて話を聞き、専門機関につなぐ『ゲートキーパー』や、認知症の人とその家族を支える『認知症サポーター』がある。05年から養成が始まった認知症サポーターは約1300万人(3月末時点)いる。自治体の住民向け講座を通じて養成し、2033年度末までに100万人の確保を目指す」とありますが、わが社にも認知症サポーターの資格を持った社員がいます。この「心のサポーター」も積極的に取得していきたいと思います。地域社会における心のケアを目指すということなら、人と人とをつなぐ互助会との相性も良いように思います。
長引くコロナ禍でさらに人間関係が希薄になり、孤独感も広がっています。ソーシャルディスタンスで、身体だけでなく心も引き離されているコロナ社会で、心のケアは最優先課題だと思います。そして、特に重要となるのが「グリーフケア」です。現代社会においては、心の問題が大きなものであると多くの人々が認めています。死別という人生最大の喪失を抱えたご遺族へのグリーフケアを行うことは現代社会を健全に保つために不可欠なものです。またグリーフを抱えたご遺族だけでなく、ケアする側のケアも大切であるとされています。心の問題はすべての人に関わる問題であることを忘れてはなりません。
わたしが座長を務める全互協のグリーフケア・プロジェクトチームでは、いよいよ来月から「グリーフケア資格認定制度」を開始する予定ですが、全国の冠婚葬祭互助会の社員を中心に「グリーフケア士」の養成を目指します。これは、死別をはじめとしたさまざまな悲嘆に寄り添い、うつ病や心の不調を予防するプロフェッショナルであり、同じく今年度から始動する「心のサポーター」との関係性は高いと思います。全国で100万人も養成するなら、各地の互助会との連動も視野に入れるべきでしょう。わたしとしては、「グリーフケア士」が、プロの「ここサポ」と位置付けられるようになればと願っています。それにしても、いよいよ心のケアの時代が到来したと実感します。新型コロナウイルスの感染拡大に加えて雨で体調を崩しやすい季節ですが、Tonyさん、どうぞ御自愛下さい。それでは、次の満月まで!
2021年5月26日 一条真也拝
一条真也ことShinさんへ
残念ながら、京都からはスーパームーンは見えませんでした。その時間帯、19時10分から20時50分まで上智大学大学院実践宗教学研究科の「宗教学演習」という科目のオンライン授業をZoomで行なっており、まったく外の様子も確認できませんでしたが、後で仙台市天文台の以下のURLから配信された皆既月食の動画を見て、このかぐや姫のお籠りとお開きの美しさにたいへん心を動かされました。神秘的ですね、やはり。
ところで、ほぼ1年前の今頃、「アベノマスク」配布で、騒動が起こっていましたね。このマスク制作と配布に数百億円かかったと言われています。300億円とか、400億円とか、500億円とか。2020年7月27日付けの朝日新聞デジタル(https://www.asahi.com/articles/ASN7W5SR4N7NUUPI007.html)には、次のような記事が掲載されています。
<布マスク、今後さらに8千万枚を配布 不要論でも発注済
政府が新型コロナウイルスの感染防止策として始めた布マスクの配布事業で、介護施設や保育所など向けの布マスクの発注と製造が続き、今後さらに約8千万枚を配る予定であることが厚生労働省などへの取材でわかった。全戸向けの配布は6月に終わり、すでに店頭でのマスク不足も解消されて久しい。配布はいつまで続くのだろうか。
「忘れた頃に突然、という感じだった」。東海地方にある保育園には、4月に続いて6月にも、職員用の布マスクが届いた。園長(53)は「万が一の時のために備蓄しているが、今のところ出番はない。自分で使うなら、もう少し呼吸しやすい形のマスクを選びます」と困惑気味だ。
政府が配布を続けているのは、介護施設や保育所、幼稚園など向けの布マスク。総額約466億円の予算で始めた全戸向けの布マスク、通称「アベノマスク」の配布とともに、こちらは約504億円の予算で3月下旬から配り始めた。カビや虫などの混入が見つかって回収騒ぎになった妊婦向け布マスクもこれに含まれる。素材や形状もアベノマスクと同じだ。
政府の布マスク配布は、店頭のマスク不足が続いていた3月下旬、厚労省が緊急対応策として介護施設などに布マスクを配ると発表。4月1日には安倍晋三首相が、5千万余りの全戸へ2枚ずつ配ると政府の対策本部で表明した。
朝日新聞は、布マスクの配布事業で厚労省がこれまでに業者と結んだ全ての契約書計37通を入手。取材も踏まえて分析したところ、配布・発注済みの布マスクは計約2億8700万枚にのぼり、総額約507億円の費用がかかっていた。うち郵送やコールセンター、検品などの事務経費が約107億円を占める見通しという。いずれも入札をしないで業者に発注する随意契約だった。(以下略)>
この朝日新聞の記事の通り、「総額約507億円」もの費用がかかっていたとすれば、その費用も含めて、戦略的に医療体制の整備とか、ワクチン開発とか、防疫・防災研究と対策に回すとかしていたら、現今の日本のコロナ禍とワクチン騒動はまた違った状況になったと思います。わたしは、500億円もの税金を無駄にしたと今なおたいへん憤慨していますが、忘れやすい日本人はこのことを疾うの昔のことと忘れ果ててしまったのでしょうか?
加えて、ダイヤモンドプリンセス号から約1年半近くの時間を無駄・無策に過ごしたにもかかわらず、東京オリンピックだけは頑固に行おうとする日本政府関係者の「大本営体制・体質」はなし崩しにカタストロフィ的な次元にまで劣化していると思います。安倍前首相が「フクシマはアンダーコントロールされている」と大嘘を吐いて、東京オリンピックを誘致したのですよ。この事態の推移に構造的な詐欺があるとずっと思っていましたが、そのことはまだまだ明確になっているとは思えませんが、しかし、いろいろなところからほころびが見え、また暴露されても来ましたね。
でもね、いつもそれで我慢を強いられ、割りを食うのは一般庶民であり、国民・市民ですよ。怒っても声は届かず、政治も政策も変えることができず、事態が破局に至るまで「あああ」とため息をつきながら、自衛するか耐えるかするほかないというのが実態です。
オリンピック反対の根本のところは、わたしは福島原発事故と被災地復興に対する日本政府の無責任な発言や態度にあると思っていますが、それに加えて新型コロナウイルスの感染拡大を「アンダーコントロール」できない無策や「Go to travel」などの失策が事態をここまで悪化させたと思います。
寺田寅彦(1878-1935)は、すでに昭和10年(19357月)に『中央公論』に「災害雑考」と題するエッセイを発表していますが、そこでとても示唆に富むことを書いてくれています。寺田寅彦が亡くなったのはその年(1935)の12月31日でしたから、その意味では、このエッセイ「災害雑考」は、彼の遺書のような、日本人への警告メッセージだと思うのです。寺田寅彦はこう述べています。
<日本人を日本人にしたのは実は学校でも文部省でもなくて、神代から今日まで根気よく続けられて来たこの災難教育であったかもしれない。もしそうだとすれば、科学の力をかりて災難の防止を企て、このせっかくの教育の効果をいくぶんでも減殺しようとするのは考えものであるかもしれないが、幸か不幸か今のところまずその心配はなさそうである。いくら科学者が防止法を発見しても、政府はそのままにそれを採用実行することが決してできないように、また一般民衆はいっこうそんな事には頓着しないように、ちゃんと世の中ができているらしく見えるからである。>
日本人を日本人にしたのは、学校教育でも文部省でもない、ひとえに日本の風土・自然がもたらす災害教育であった、と言うのです。神代から現代まで続いてきた「災難教育」。この経験から学び取った知恵と対処法が日本人を日本人にした、と。
しかしながら、その「災難教育」の経験智は、今はどうなっているのでしょうか? 何とも心もとなく思う同時に、いやいやこのような「災難」から次の芽が確かに吹き出てきているよ、と言える面もあると感じてもいます。今は、ダメダメニッポン、という声があちこちから上がっているように見えますが、しかし、それでは終わらないでしょう。寺田寅彦の予言が正しければ、現今日本人は福島原発事故にも新型コロナウイルスの感染拡大にも「アンダーコントロール」できてはいませんが、この事態を突破して次に向かう動力と芽を準備しているはずです。
今は、右を見ても、左を見ても、ネガティブキャンペーンのような負の感情と声が高まっていますが、さてそこから、次のクリエーションが始まっている。その槌音が聴こえるような気もします。これは錯覚ではないと思っていますが、しかし、地球自体の変化の速度にその次の芽が追いついていけるかどうかについては、大変心配するところです。
ムーンサルトレターで、繰り返し述べてきたわたしの心配事は、自然災害であり、その多くは気候変動によってもたらされたものです。その気候変動の原因は、完全な証拠はありませんが、単なる自然現象としての自然の推移ではなく、人間の行為の蓄積によるものであり、文明の所業、現代資本主義や市場経済が促進させた結果であることは間違いないでしょう。それが今日明日という短期的な生活苦をもたらすわけではないと高を括っていた結果、このパンデミックで構造的な問題点と欠陥を突き付けられました。
2018年に『常世の時軸』、2019年に『夢通分娩』と『狂天慟地』を詩集のかたちで出して、何とかせねばという危機感丸出しの矢を世間に放ちましたが、それはほぼ何の反応も反響もなくむなしく虚空に消えていきました。この連作の第三詩集の『狂天慟地』(土曜美術社出版販売、2019年9月1日刊)の中のタイトル詩「狂天慟地」を次のように書きました。
「狂天慟地」
驚天動地
ではなく
狂天慟地
たとえ何が起こっても
めげないでくれ
いつしか
夜逃げするほどの重荷を
背負い切れない遺伝子に
残した負債は不渡り
だとしても
しぬぎられ
そまなちて
とりしでみ
まうらほす
紅は
いとをつないで
巧那須
そだつひこ
修理固成
慟地慟哭
いくむすひ
いくしまを
いきのびて
ひめもよう
所を収めず
身の程知らずに
渡り鳥
狂天慟地
何が起こるか分からない
たとえそうであっても
ゆるがずに往け
たおやかに遊べ
これは、俳人であり、東京帝国大学物理学教授であった寺田寅彦先生の「災害雑考」のメッセージを引き継ぐ「災難教育」路線のつぶやきでありました。「災難教育」をまっとうに受け継ぐためには、日本列島の風土自然をつぶさによく知らなければなりません。17歳の時から70歳になる今日まで、日本列島のあちこちを聖地巡礼し、そのいぶきとはたらきを感じとり、今は比叡山の麓に住んで、15年間にこの神仏のお山を708回登拝して、この森の「草木国土悉皆成仏」の聲とメッセージに耳を傾けてきましたので、少しは寺田「災難教育」の遺言を聴き取る素地はできてきたと思っています。
寺田寅彦は、次のようにも述べています。
<植物や動物はたいてい人間よりも年長者で人間時代以前からの教育を忠実に守っているからかえって災難を予想してこれに備える事を心得ているか少なくもみずから求めて災難を招くような事はしないようであるが、人間は先祖のアダムが知恵の木の実を食ったおかげで数万年来受けて来た教育をばかにすることを覚えたために新しいいくぶんの災難をたくさん背負い込み、目下その新しい災難から初歩の教育を受け始めたような形である。これからの修行が何十世紀かかるかこれはだれにも見当がつかない。>
この寺田先生の動植物が持っている災難予知力ついての指摘。よくよく考えるべきですね。世界中の先住民の叡智もそのことを伝承して来ているとおもいます。わたしたちは、人間の非を認め、植物や動物の声と行動からもっともっといろいろなメッセージを学び取らなければならないのではないでしょうか? 比叡山で育まれた「草木国土悉皆成仏」という天台本覚思想は、その究極命題のメッセージだと思っています。その文脈で、フィンランドの「熊歌」を聴いた時、わたしはほんと、泣けましたね。人間の宿業と悲しみに。そしてそれゆえの、祈りに。
「熊歌」
森に第一歩を踏み込んだ
そして二歩目を踏み入れる
私はお前の命を貰う
お前を食べる
申し訳ない 仕方ないのだ
お前は私たちの世界に来たのだから
鼻を食べる お前のような 強い嗅覚を持ちたい
耳を食べる お前のような 鋭い聴覚を得たい
目を食べる お前のような 深遠な視覚を得たい
舌を食べる お前の言葉の力を得たい
私はおまえの命を貰う
おまえを食べる
申し訳ない 仕方ないのだ
(NHKスペシャル『世界里山紀行フィンランド』2017年8月19日放送)
これに加えるべき言葉を持ちません。
例年より早く梅雨入りした比叡山山頂付近で、地面の中の蛙の聲と遭遇し、思わず、その絶妙の聲声に聴き惚れてしまいました。
この比叡山蛙のオーケストレーションにしびれます。ノックアウトされます。「草木国土悉皆成仏」は夢ではありません。地球の各地に、また端々に潜在しているはずです。
東山修験道708(2021年5月23日、4分24秒):
2021年5月27日 鎌田東二拝
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