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シンとトニーのムーンサルトレター第230信(Shin)

鎌田東二ことTonyさんへ

 

Tonyさん、こんばんは。わたしは今、沖縄の那覇に来ています。今夜は那覇在住の写真家である安田淳夫さんと一緒に琉球の満月を眺めております。4月の満月は「ピンクムーン」と呼ばれています。ずいぶん春らしいネーミングですが、月がピンク色に見えるわけではありません。「ピンクムーン」という名前の由来は、北アメリカが主な原産地のフロックスの花の色だそうです。フロックスとは、ハナシノブ科フロックス属の多年草の事で、ひとつの茎に小さな花がたくさん集まることで大きな花房をつくるのが特徴です。またピンクムーンには、恋愛運に効果があると言われているそうです。その他にも「結婚運」や「家庭円満」、「恋愛成就」などにも効果があるとされ、スマホの待ち受け画面をピンクムーンにするというおまじないもあるとか。

松柏園ホテルの庭園で

 

さて、春になって京都は観光客で溢れてるでしょうね。特に桜のシーズンの人出は凄かったことでしょう。Tonyさんは、お花見はされましたか? 4月1日、松柏園ホテルの庭園の桜の花は七分咲きぐらいでしたが、この日の11時からサンレーグループの合同入社式が5年ぶりに行われました。ずっと各地のグループ企業すべての新入社員を一同に集めて合同入社式を行ってきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2019年から大幅に規模を縮小して本社新入社員のみを対象とした「辞令交付式」としました。今年は、じつに5年ぶりに通常スタイルに戻したのです。


辞令交付のようす

 

「開式の辞」の後、社歌斉唱と経営理念の唱和がありました。新入社員たちはマスク姿でしたが、マスク越しでも若い彼らからは気合の入った声が聞こえてきました。それから、辞令交付式がスタートし、社長であるわたしは新入社員に辞令を交付しました。わたしは1人ずつ名前を心を込めながら読み上げ、心を込めて交付しました。わたしの後は、沖縄の佐久間康弘社長が沖縄の新入社員に辞令を交付しました。


新入社員にメッセージを送りました

 

その後、わたしが登壇し、社長訓示を述べました。わたしは、以下のようなメッセージを伝えました。新入社員のみなさんを心より歓迎いたします。世の中の数多くある会社の中から、サンレーを選んで下さったことに感謝の気持ちでいっぱいです。ぜひ、これから、一緒に新しい時代を創りましょう! わが社は冠婚葬祭をはじめ、介護施設や温浴施設などを運営する会社ですが、ウェルビーイング経営を行うコンパッション企業を目指しています。「ウェルビーイング」とは「幸せ」、コンパッションとは「思いやり」のことです。そして、わが社は、サービス業からケア業への進化を図っています。


わが社は礼業の会社です!

 

ケア業とは、人間尊重思想としての「礼」を中心とする「礼業」でもあります。サンレーは「礼」の実践を生業とする礼業なのです。世の中には農業、林業、漁業、工業、商業といった産業がありますが、わが社の関わっている領域は礼業です。礼業とは「人間尊重業」のことです。サンレーでは「礼」をすべての基本とし、大ミッションには「人間尊重」を掲げています。もともと冠婚葬祭を業とする会社ですから当然といえば当然ですが、さらに創業者である佐久間進名誉会長が小笠原流礼法の伝統を受け継ぐ「実践礼道・小笠原流」の宗家であり、挨拶・お辞儀・電話の応対・お茶出し・お見送りにいたるまで、社員へのマナー教育は徹底に徹底を重ねています。


礼法とは最強の護身術である!

 

考えてみれば、人間のコミュニケーションの中で、礼儀正しさほど、人と交換しやすいものはありません。それを他人に差し出せば、必ず返ってくるのです。そして相手の気持ちを良くするのです。また、相手に自分は重要な人間なのだという気持ちを起こさせます。失礼に扱われることほど人間のプライドをひどく傷つけるものはなく、相手に接するとき礼を失すれば、相手の攻撃心と敵意を引き起こすことになります。逆に、礼儀正しく接すれば、攻撃心や敵意など生まれるはずもありません。挨拶は身を守る鎧であり、礼法は最強の護身術なのです。


志のみ持参してほしい!

 

いま、SDGsが重要とされます。そんな今こそ、互助会の出番であると考えているわが社には無縁社会を乗り越え、有縁社会を再生するという志、グリーフケアによって世の人々の悲嘆を軽くするという志、そして冠婚葬祭で日本人を幸福にするという志があります。すなわち、「天下布礼」という大志です。今後は、ますます「ハード」よりも「ハート」、つまりその会社の「想い」や「願い」を見て、お客様が選別する時代に入ります。最後に、「新入社員のみなさんは、志のみ持参してくれればいい。その志を合わせて、一緒に天下布礼という大志を果たしましょう!」と述べて、わたしは降壇しました。この日は、以前の入社式が復活し、新入社員が社会人としてのスタートを切るその日に、きちんと辞令を渡し、祝いの言葉を伝えることができて良かったです。また、社長としてのメッセージを伝えることもできて良かった!


天道塾のようす

 

4月18日の8時、同じ松柏園ホテルの神殿で恒例の「月次祭」が開かれました。神事後はやはり恒例の「天道塾」です。この日も松柏園のメインバンケット「グランフローラ」で行われました。最初にわたしが登壇し、開塾の挨拶をしました。わたしは「おはようございます!」と言ってから、」まずは、原爆を開発した物理学者のロバート・オッペンハイマーの伝記映画「オッペンハイマー」について話しました。クリストファー・ノーラン監督の作品ですが、第96回アカデミー賞では作品賞を含む7冠に輝きました。アカデミー賞の授賞式は、日本時間の3月11日でした。「3・11」という日本人にとってのグリーフ・デーの当日に、日本人にとって最大のグリーフといってもよい原爆の開発者についての映画がアカデミー賞で旋風を起こしたのは複雑な気分でした。

 

原爆は核兵器です。核兵器というのは世界史上で2回しか使われていません。その土地は日本の広島と長崎です。ですから、被爆国である日本の人々は、当事者として、映画「オッペンハイマー」をどこの国の国民よりも早く観る権利、また評価する権利があると思いました。本当は、「オッペンハイマー」は昨年8月6日の「広島原爆の日」までには公開されているべきだったと思います。日本人のグリーフを無視した映画がアカデミー賞作品賞を受賞した事実によって、日本人はセカンド・グリーフを負いました。

 

「オッペンハイマー」の製作陣は、日本の観客に「礼」を欠いたのです。本当は、映画の冒頭に「広島および長崎に投下された原爆の犠牲者の方々に心より哀悼の意を表します」といったクレジットを入れるべきでした。「タイタニック」(1997年)がアカデミー賞で作品賞や監督賞など11部門に輝いたとき、ジェームズ・キャメロン監督は「この映画は多くの人が亡くなった悲劇を描いている。何よりも犠牲者に哀悼の意を表したい」とアカデミー授賞式でスピーチしましたが、死者に対する「礼」の精神がクリストファー・ノーラン監督にはありませんでした。

 

続いて、Netflixドラマ「三体」を紹介しました。ヒューゴー賞を受賞した中国のSF作家、劉慈欣(リー・ツーシン)の世界的ベストセラー小説『三体』三部作を原作にした超大作SFドラマです。物理学者の父を文化大革命で紅衛兵によって殺害され、自身も反体制派のレッテルを貼られ過酷な労役に従事させられていた元エリート宇宙物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)は、絶望の日々を送っていました。ところが、ある日突然、彼女は巨大パラボラアンテナを備えた謎めいた軍事基地に連れて行かれ、そこで働くよう命じられます。そこでは地球外生命体との交信という驚くべきプロジェクトが秘密裏で進行していました。そして、物語の舞台は現代のイギリスに飛びます。


文化大革命について語る

 

Netflix版ドラマ「三体」の冒頭は、中国の文化大革命のシーンでした。ジーン・ツェンが演じる葉文潔(イェ・ウェンジェ)という若い女性が、中国の文化大革命の最中に大学教授の父親が紅衛兵から殴り殺されるのを目撃します。中国では、孔子以前から祖先崇拝の精神が強く伝えられ、その家族愛や信義などを孔子の言行録である『論語』にまとめられました。この精神は脈々と受け継がれ、中国大陸の十数回に及ぶ「易姓革命」や、封建的な伝統文化のすべてを悪と決め付けて破壊しようとした中国共産党の「文化大革命」という逆風のなかでも生き残ったのです。 その一方で、「仁・義・礼・智・信」といった道徳心や倫理観は、文化大革命の影響で、最終的には完全に失われてしまいました。


「三体」と「三礼」について

 

中国で毛沢東が「文化大革命」を起こした1966年に、日本でわが社(サンレー)が誕生しました。「批林批孔」運動が盛んになって、孔子の思想は徹底的に弾圧されました。世界から「礼」の思想が消えようとしていたのです。まさにそのとき、日本の北九州の地において「創業守礼」と「天下布礼」の旗を掲げるサンレーが誕生したわけです。この意味は大きいと思っています。「礼」とはもともと「葬礼」から生まれ、発展したとされています。「三体」の中で異星人のアバターであるソフォンが「人間は簡単に死ぬ」と言い放つシーンがありますが、わたしは「人間が死ぬのは当たり前だ」と思いました。最も重要なのは、人が死ぬことではなく、死者をどのように弔うかということ。そう、問われるべきは「死」ではなく、「葬」なのです。さらに、わたしは「葬」とは人類を存続させる究極のSDGsだと考えています。

 

それから、「オッペンハイマー」の日本公開日であった3月29日に最終回が放送された話題のTVドラマ「不適切にもほどがある!」の話をしました。1986年(昭和61年)から2024年(令和6年)にタイムスリップしてしまった体育教師の小川市郎(阿部サダヲ)。典型的な“昭和のダメおやじ”です。彼の“不適切”な言動がコンプライアンスで縛られた令和の人々に衝撃を与えるとともに、「何が正しいのか」について考えるヒントを与えました。毎回、昭和と令和のギャップなどを小ネタにして爆笑を誘いながら、「多様性」「働き方改革」「セクハラ」「既読スルー」「ルッキズム」「不倫」「分類」、そして最終回は「寛容」と社会的なテーマをミュージカルシーンに昇華するのが最高でした。

 

令和の時代について「多様性の時代です」と説明する女性に対して、小川は「『がんばれ!』って言われたら、1ヵ月でも会社を休んでいい時代?」と問いかけます。また、「『結婚だけが幸せじゃない』って言うけど、じゃあ『結婚して幸せ!』って言っちゃいけないってこと?」という小川の言葉は胸に突き刺さりました。不適切の概念など、時代によっていくらでも変わります。しかし、人間が社会を築いて以来、ずっと変わらないものもあります。わたしは、その1つが「礼」だと思います。コンプライアンス社会の最大のタブーは、ハラスメントです。わたしは、ハラスメントの問題とは結局は「礼」の問題であると考えています。「礼」とは平たく言って「人間尊重」ということです。この精神さえあれば、ハラスメントなど起きようがありません。心の底から、そう思います。


「礼」から「和」へ

 

「礼」を重んじるわたしの考え方は、佐久間進名誉会長ゆずりです。ちなみに名誉会長は昭和10年生まれですが、偶然にも「不適切にもほどがある!」の小川市郎と同い年です。佐久間名誉会長は、著書『礼道の「かたち」』(PHP研究所)において、「日本は和の国として、世界的に見ても稀有な、きわめて多様性に富んだ文化を持っています。日本人が持つこうした多様性や柔軟性の根底には、日本独自の和の精神や和の文化があります。この和が、さまざまな思想や文化を平和裏に共存共栄させる素地になっているのです」と述べます。令和の時代になって「多様性」を声高に叫ばなくても、日本はもともと多様性に富んだ社会であり、それは「和」の一語に象徴されています。

 

そういえば、昭和にも令和にも「和」が入っていますね。聖徳太子の「和をもって貴しとなす」のルーツは『論語』で、「有子が日わく、礼の用は和を貴しと為す」という言葉です。「和」を実現するには「礼」の存在が不可欠なのです。このように、「オッペンハイマー」も、「不適切にもほどがある!」も、礼という視点から語れます。人間がいる限り、礼は普遍のテーマ。そして、「礼」こそが「和」を実現する。祭りのときの掛け声である「わっしょい」というのは「和を背負う」が語源だそうです。また、「笑い」とは周囲を和ませ平和を呼び込む「和来」という意味があると思います。さらには、大本教の出口王人三郎も言うように、神事の柏手は「火水(かみ)」を呼び込む「産霊」の秘宝だということを紹介しました。


「K2S2」を初めて提唱

 

わたしが常に考えているのは「冠婚葬祭のアップデート」です。冠婚葬祭は究極のSDGsです。Z世代も、子どもたちも、ずっと冠婚葬祭という文化を受け継いでいってほしいと願いますが、もちろん時代に合わせたアップデートが求められます。冠婚葬祭文化振興財団主催の小学生の絵画コンクールで「私のした結婚式」というテーマの応募作品が劇減しています。それは、小学生たちが結婚式に参列した経験がなく、存在そのものを知らないからです。そこで、わたしは『こども冠婚葬祭』という本を企画し、さらには冠婚葬祭を「K2S2」と言い換えてプロモーションすることも視野に入れています。


冠婚葬祭をPOPに表現したい!

 

冠婚葬祭に代表される儀式とは人類の行為の中で最古のものであり、哲学者ウィトゲンシュタインは「人間は儀式的動物である」との言葉を残しています。「人間が人間であるために儀式はある」とはわたしの言葉ですが、儀式こそは人間にとって最重要の精神文化であり、儀式を行うことは人類の本能ではないかと考えます。本能であるならば、人類は未来永劫にわたって結婚式や葬儀を行うことでしょう。冠婚葬祭互助会業界の人々は、もっと文化としての冠婚葬祭に光を当てなければなりません。そこに道は開けます。わたしたちの仕事には普遍性があり、どの世界であっても、いつの時代であっても、世の人々を幸せにできるのです。さらに励みましょう!」と言って、降壇しました。


最後は、もちろん一同礼!

 

明日25日は沖縄の名護紫雲閣の竣工式に、翌26日は那覇での海洋散骨に参加します。来月13日には、本屋大賞作家の町田そのこ氏との「葬儀とグリーフケア」についての対談、同29日には芥川賞作家で福聚寺住職の玄侑宗久氏との「仏教と日本人」についての対談が予定されています。また、Tonyさんにお会いできる日を楽しみに、「天下布礼」を道を走り続けたいと思います。それでは、また、次の満月まで!

2024年4月24日 一条真也拝