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シンとトニーのムーンサルトレター第195信(Shin&Tony)

鎌田東二ことTonyさんへ

Tonyさん、お元気ですか? わたしは、いま、横浜で今宵の満月を見上げています。今回は、ストロベリームーンです。アメリカ圏の6月の満月の呼び方で、6月はイチゴの収穫時期であり、丁度その頃に月が紅くなることが多いことから、ストロベリームーンと呼ぶようになったとか。


横浜のストロベリームーン

わたしは24日の午後に横浜入りしたのですが、その日は驚くべきニュースに接しました。なんと、宮内庁の西村長官が定例会見で「天皇陛下がオリンピック・パラリンピックの開催が感染拡大に繋がらないかご懸念されている」と述べたというのです。西村長官は今日の午後の定例会見で、「天皇陛下は現下の新型コロナウイルス感染症の感染状況を大変ご心配されておられます」「国民の間に不安の声がある中で、ご自身が名誉総裁をお務めになるオリンピック・パラリンピックの開催が感染拡大に繋がらないか、ご懸念されている、心配であると拝察いたします」と述べました。


ヤフーニュースより

わたしはずっと「東京五輪の強行開催を止められるのは、もはや天皇陛下しかおられない」と思ってきましたが、「ついに、キターッ!!」という感じです。頼みの小池都知事は極度の過労で静養となりましたが、果たして今後の展開がどうなるか、まったく予断を許さなくなってきました。


パシフィコ横浜で講演

さて、25日の13時から、わたしはパシフィコ横浜で講演しました。「フューネラルビジネスフェア2021」シンポジウム内の講演ですが、「重要性高まるグリーフケアの意義と役割」という演題でした。作家の一条真也としてではなく、サンレーの社長としてでもなく、一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)の副会長でグリーフケアPT座長の佐久間庸和として登壇しました。


コロナ禍でも満員に

冒頭、進行役による本講座開設の趣旨と登壇者紹介がありました。最初に、いよいよ今月からスタートした冠婚葬祭文化振興財団による「グリーフケア資格認定制度」の話から始めました。わたしは全互協のグリーフケアPTの座長として、ずっと資格認定制度の発足に取り組んできましたので、ついに開始のはこびに至り、感無量であります。グリーフケア資格者認定制度は、葬儀の施行に加え、サポートやケアなどのスキルを持った専門職(グリーフケア士)の育成が非常に重要になってきたため、創設されました。

この資格認定制度を行う意義として、グリーフケアが葬儀施行以外にも医療の現場を始め様々な現場で必要とされるものであり、グリーフケア士の育成を行うことでグリーフを抱える「悲嘆者」が日常の生活の中でケアされる健全で心ゆたかな社会を構築していくこととなります。また、この制度は、わたしが客員教授を務める上智大学グリーフケア研究所による監修のもと、葬儀業界関係者だけを対象とせず、多くの方が受験できるようにしています。

グリーフケア士とは、その役割を果たすために、「悲嘆者」と誠実に向き合い、ライフサイクルの中で起こるグリーフの諸相を理解し、儀礼と傾聴を通して、悲嘆を抱えた方に寄り添いケアを実現する専門職です。グリーフケア士に認定された方には、その上位の資格である上級グリーフケア士の受験や、さらには高度なグリーフケアの能力を獲得するために上智大学グリーフケア研究所の「グリーフケア人材養成講座」の受講を推奨されており、そこではグリーフケアのマネジメント(指導・育成・管理)能力を会得できます。


ケアの時代を訴える

それから、「心のケアの時代」のテーマで話しました。「『サービス』から『ケア』へ」として、縦の関係(上下関係)であるサービスと横の関係(対等な関係)であるケアの本質を説いて、その違いを説明しました。「さまざまなケア」として、ヘルスケア、メンタルヘルスケア、コミュニティーケア、インフォーマルケア、ターミナルケア、緩和ケア、スピリチュアルケア、そしてグリーフケアについて説明しました。特に、無縁社会に加えてコロナ禍の中にある日本において、あらゆる人々の間に悲嘆が広まりつつあり、それに対応するグリーフケアの普及は喫緊の課題であると訴えました。さらには、「ケアすることは、自分の種々の欲求を満たすために、他人を単に利用するのとは正反対のことであり、相手が成長し、自己実現することを助けること」などのケアについての自分の考えを明らかにしました。

葬祭業は、サービス業というよりもケア業です。他者に与える精神的満足も、自らが得る精神的満足も大きいものであり、いわば「心のエッセンシャルワーク」とでも呼ぶべきでしょう。それから、「葬儀」と「グリーフケア」の本質論なども話しました。最後に、「時代のニーズに答えるためにグリーフケア資格認定制度はスタートしていきますが、皆様方にはこの資格認定制度をよく活用していただき、社会において必要不可欠な存在となるべく、そして共によりよい社会をつくっていく存在となっていただきたいと願っております」と述べて、わたしは講演を終えました。


小倉織マスク姿で天道塾に登壇

さて、遡ること1週間前の18日、わたしは終日ハードスケジュールでした。早朝から松柏園ホテルの神殿で「月次祭」、宴会場で「天道塾」が開催されました。登壇したわたしは、最初に、わたしは「昨日、東京から戻ってきました。東京五輪の開幕まで、あと1カ月ちょっととなりました。どうやらコロナ禍にもかかわらず、東京五輪は強行開催される流れになっていますが、わたしは義によって東京五輪の開催中止を訴えてきました。国民のほとんどが望んでいない祭典ですが、わたしが五輪中止を訴えてきたことを、互助会業界の仲間たちも心配してくれているようです。

わたしが冠婚葬祭互助会という経済産業省の許認可事業の経営者でありながら、業界団体の副会長および互助会政治連盟の副会長でもありながら、政府および自民党が強行開催しようとしている東京五輪の中止を願うのは何故か。その最大の理由は、じつは儀式とグリーフケアにあります。コロナ禍で多くの方々が、本来は行われるはずだった儀式を断念しました。入学式、卒業式、成人式、入社式・・・日本人が断念した儀式は数知れません。日本中の祭礼も新型コロナウイルスの感染拡大防止のためにことごとく中止されました。そして、冠婚葬祭。多くの新郎新婦が夢に描いていた結婚式や結婚披露宴を断念し、今も延期されている方々も少なくありません。葬儀においても、家族葬を希望しなくても結果的に参列者を制限して寂しい葬儀が多く生まれました。新型コロナウイルスの感染によって亡くなられた方に至っては看取りもできず、葬儀さえできませんでした。その悲しみは大きいものでした。


天道塾での講話のようす

それは日本だけではなく、世界中がそうでした。人類全体が理不尽な悲嘆に包まれたのです。その遺族の方々の無念、披露宴を挙げられなかった新郎新婦の落胆、卒業式や成人式を体験できなかった若者たちの悲しみはどこに向かうのでしょうか。こんな状況で東京五輪が開催されれば、彼らの悲しみは増大するばかりです。逆に五輪が中止されれば、「パンデミックの状況下では、オリンピックでも開催できないのだから仕方ない」と少しはあきらめがつくのではないでしょうか。それは仇討ちや復讐とは違うけれども、負のグリーフケアではあります。しかし、日本中、いや世界中の人々の巨大な悲嘆を汲み取る可能性が高いという一点において、わたしは東京五輪の強行開催に最後まで反対いたします。古代ギリシャの葬送儀式として生まれたオリンピックは、コロナで亡くなった世界中の犠牲者および中止されたあらゆる儀式・祭典関係者の悲嘆と無念を受け入れ、今回の東京大会は開催されないことを願います。

さて、わたしはグリーフケアにも「ユーモア」や「笑い」が必要であると考えています。コロナ禍の中でストレスがたまる一方ですが、そんな邪気を祓ってくれる素敵な動画をYouTubeで見つけました。「幕末・明治の偉人を【笑顔】にしてみた」という動画です。夏目漱石、板垣退助、野口英世、森鴎外、与謝野晶子、伊藤博文、明治天皇、樋口一葉、滝廉太郎、芥川龍之介、福沢諭吉、大久保利通、木戸孝允、大隈重信、渋沢栄一、住友友純、豊田佐吉、山縣有朋、近藤勇、土方歳三、坂本龍馬、西郷隆盛、徳川慶喜、勝海舟、篤姫、岩崎弥太郎、高杉晋作、岩倉具視ら偉人たちのモノクロの肖像写真をカラーに編集し、さらに笑顔に変えるという動画ですが、これは素晴らしい! いやはや、こんな幸せな気分にしてくれる動画は久しぶりに見ました。YouTubeで偶然見つけたのですが、2020年8月23日にUPされています。動画の作成者はコー吉さんという方で、いろんな有名人の顔を加工する動画をたくさん作られています。この動画を見て、「やはり笑顔は素晴らしい!」と痛感しました。

拙著『孔子とドラッカー 新装版』(三五館)の「笑――ユーモアと笑顔が福を呼ぶ」にも書きましたが、笑顔は世界共通のコミュニケーションの「かたち」です。わが社の経営理念の1つに「SMILE TO MANKIND(すべての人に笑顔を)」があります。わが社のような「ホスピタリティ」すなわち「親切な思いやり」というものを提供する接客サービス業においては、笑顔・挨拶・お辞儀といったスキルが非常に大切となります。中でも特に笑顔が必要であると言えます。サービスの現場だけではありません。営業においても、明るい笑顔でお客様に接するのと暗い無表情で接するのとでは雲泥の差があり、それは確実に成果の差となって出てきます。マンカインドとは「人類」であり、「すべての人」という意味です。すべての人は、わたしたちのお客様になりえます。ぜひ、お客様のみならず、取引業者の方や社内の人たち、部下や後輩にも笑顔で接していただきたいと社員の皆さんにお願いしています。

笑顔は、接客サービス業においてだけでなく、ありとあらゆるすべての人間関係に大きな好影響を与えます。ミュージシャンの高橋優が、「福笑い」という歌で「きっとこの世界の共通言語は、英語じゃなく笑顔だと思う」と歌っていましたが、国籍も民族も超えた、まさに世界共通語、それが笑顔です。また、性別や年齢や職業など、人間を区別するすべてのものを超越してしまいます。「すべての人に笑顔を」は、「人間尊重」そのものです。笑顔のない組織に潤いはなく、殺伐とした非人間的な集団にすぎません。会社にも社会にも笑顔が必要です。現在、コロナ禍のマスク越しでは笑顔が伝わらず、目の表情やアイコンタクトが大切になります。せめて、「マスクの下は笑顔です!」を心掛けたいものですね。

冠婚葬祭互助会であるわが社は、死別の悲嘆に寄り添う「グリーフケア」にも積極的に取り組んでいますが、そこでも笑顔やユーモアというものを大切にして、愛する人を亡くされた遺族の方々を対象とした「笑いの会」などを開催しています。葬儀においては、ひと昔前の遺影写真は笑顔がタブーとされていた時代もありましたが、最近は笑顔の写真で遺影写真を作られる方も増えてきました。遺影写真は代々その家に残る写真なので、かしこまった写真より笑顔の写真がご遺族も心穏やかに過ごせるのではないでしょうか?


グリーフケア士のテキストを持って

天道塾の終了後は、サンレー本社で動画の撮影を行いました。全互協が配信するグリーフケア資格認定制度の紹介ムービーの中のグリーフケアPT座長としての挨拶動画です。生まれて初めて使うプロンプターに戸惑いながら、わたしは以下のような挨拶を行いました。グリーフケアのテーマカラーであるグリーンの装いで臨みました。これまで死別悲嘆に直接かかわる葬儀業界では葬儀の施行に加え、サポートやケアの必要性が訴えられてきました。そして今、グリーフケアの正しいスキルを持った専門職の育成とその活躍がこれからの葬儀の中で大きなポジションを占めて来ることも言われています。また、現代社会においてもグリーフの中にある方々に向けての適切なサポートやケアの重要性がますます高まっていますが、グリーフケアは葬儀施行以外にも医療の現場をはじめ、さまざまな現場で必要とされています。


プロンプターで動画を撮影

グリーフケア士は「悲嘆者」と誠実に向き合い、ライフサイクルの中で起こるグリーフの諸相を理解し、儀礼と傾聴を通してケアを実現する専門職です。そしてその存在はグリーフを抱える「悲嘆者」が日常の生活の中でケアされる健全な社会を構築する推進者でもあります。ケアを通じ、「悲嘆者」だけでなく、ケアする人がケアされること、すなわち「ケア者のケア」も、グリーフケアに含まれます。

最後に、「皆様方にはこの資格認定制度を活用していただき、共に『心ゆたかな社会』をつくるために必要不可欠な存在となっていただきたいと願っております。そしてこの認定制度がその一助となることができれば幸いです。皆様の今後のご活躍を祈念し、ご挨拶にかえさせていただきます」と言って、挨拶動画の撮影を終えました。


映画撮影の様子

本番撮影の様子

その後は、なんと映画に出演しました。といっても、チョイ役ですが・・・・・・。当初は16時からの撮影だったのですが、前のシーンの撮影が押して、17時半過ぎから開始されました。北九州市出身の雑賀俊朗監督の最新作「RED SHOES」の葬儀場でのシーンに、主人公・真名美の親戚である西山という男の役で出演しました。交通事故で亡くなった真名美の両親の葬儀のシーンですが、わが社の小倉紫雲閣で撮影されました。わたしには、ほんの短いセリフが与えられました。わたしのセリフの直後が映画のタイトルバックという流れで、責任重大です。しかも、本番直前にセリフが増えました。驚きましたが、それでも何とかこなしました。そんなこんなで色々とバタバタしながら、またバカをやりながら、なんとかコロナ禍の中で生きております。Tonyさん、どうぞ、今後とも御指導下さいませ。では、次の満月まで!

2021年6月25日 一条真也拝

 

一条真也ことShinさんへ

昨夜のストロベリームーンは、残念ながら京都の一乗寺からは望めませんでした。今日、6月26日も曇りですが、雨が降らなければ15時半から比叡山登拝したいと思います。東山修験道717となります。

東京オリンピックですが、菅首相も加藤官房長官も丸山五輪相も西村泰彦宮内庁長官の発言を長官本人の個人的見解としてあからさまに矮小化してしまいましたね。「天皇の国事行為」という憲法上の規定があるとはいえ、事態の重要さや深刻さを省みない今の政権の厚顔無恥の勝手な振る舞いが続いていて怒り心頭に達しています。東京都議会選がまもなく行なわれますが、主要開催地の東京都民の意志で、現政権のふるまいや方針に対するNO! を突き付けてほしいと心から願います。安倍政権から現政権に受け継いだ負の遺産は莫大なものがあると思っていますが、その負の遺産の負債が増え続けていることに我慢がなりません。本当に頭に来て、最近の「京だらぼっち」twitterも荒れています。

ところで、Shinさんは2回目の映画出演を敢行したのですか? 1回目は確か鶴田真由さんとの「共演?」でしたよね? その次が「RED SHOES」の葬儀場面ですか。凄いですね、「俳優?」としての活躍ぶり。Shinさんは「俳優としての顔」もなかなか存在感があると思いますよ。ぜひそのシーン、差し支えなければ、いつか、本ムーンサルトレターでもピンポイントシーンを紹介してほしいものです。著作権などの関係で難しければ諦めますが……。とても残念ですが……

さて、「グリーフケア士」の取り組みですが、大変重要な動きが始まっていますね。これまでは、宗教がケアの重要な担い手でした。確かに、今もなお宗教は重要なケアの担い手です。が、しかし、宗教離れしてきた近代以降の社会の中で、医療や看護や精神医学や心理学と関わる領域の中で、スピリチュアルペインに対する認識が広く一般社会に拡充され、WHOの健康の定義の中にもspiritualtyについての観点の必要が指摘されてきたこの25年ほどの動向の中で、宗教・非宗教を問わず、スピリチュアルケアやグリーフケアに対する一般社会的要請が次第に強くなり、高まってきているとわたしも日々感じています。

この1ヶ月でわたしの方も一つ大きな変化が起こりました。それは上智大学の大学院の「宗教学演習」の授業だけですが、それが対面形式に戻ったという変化です。と言っても、対面とZoomの両方でハイブリッドで行なう「ハイフレックス」という方式なので、20名いる参加者の大半はまだZoom参加ですが、やはり、カトリックの大学のキャンパス内で、授業開始や終了のチャイムを聴きながらの「宗教学演習」の実施は何とも落ち着いた雰囲気があり、嬉しいものです。

そのような次第で、このところ、毎週東京に行き帰りしています。昨年は東京に出たのは10回ほどでしたが、今年は6月以降はほぼ毎週になるかもしれません。東京オリンピックの開会式の前の7月21日が春学期の最後の授業日なので、東京に出かけます。その翌日に「オンライン大重祭り2021:https://phdmoon.sakura.ne.jp/ohshige/」があるので、上智大学からZoomを開いて中継することになるかもしれません。もし都合がつきましたら、12時から17時まで5時間ぶっ続けでやっていますので、覗いてみてください。終了間際の1時間ほどであれば、『久高オデッセイ第三部 風章』の演出助手を務めた今は曹洞宗の僧侶の高橋慈正さんとわたしが務めていますので、Shinさんを見つけたら、短いコメントでも即興で求めるかもしれませんので、サプライズ出演してもらえると有難いですね。

今週、水曜日に東京に出て、わたしも映画の撮影をしたのですよ。監督は『縄文にハマル人々』(2018年制作、予告編:https://www.youtube.com/watch?v=hLtID-e6G_8)の山岡信貴さんで、次回作の芸術に関わるドキュメンタリー映画のための撮影でした。

13時半から16時半までまる3時間ほど話し続けましたが、山岡さんの質問はなかなか難しく、主に次のようなものでした。

○アートと宗教の違いや類似点は?

○宗教(あるいはアート)でしかなしえないことは?

○今のアートに欠けているようにみえることは?

○アートや宗教は必ず生まれていたか? 別の形はあり得たか?

○宗教は今後どう変わってゆくと思われるか?

○宗教は科学とどう付き合えばよいのか?

○宗教でも科学でも見えないことがあるとしたらどのようなことか?

○学問と実践を通して人の思考の避けようのない癖のようなものを感じられることは?

○美を感じるのはどのような時か?

けっこう難しい質問でしょう? これらの質問に思いつくままに答えていったのですが、宗教と芸術の起源、神話(→文学)と儀礼(→演劇・音楽)と聖地(→劇場・ミュージアム)という芸術・芸能との相関についても話をしていきました。どのような映画になるか、楽しみにしています。日本の芸能、神楽や能や歌舞伎や各地の民俗芸能についてもいろいろと話をしたかったのですが、ちょっと時間不足だったかな?

その他には、本年3月30日に、日本能率協会マネジメントセンターから出した『身心変容技法研究シリーズ③ 身心変容と医療/表現~近代と伝統』を元にした「身心変容技法オンラインセミナー」の第4回目の講座「ヒルデガルトとジョン・ケージにおける身心変容」(講師:柿沼敏江、6月11日)、第5回目の講座「あはひの身心変容技法~能と芭蕉を中心に」(講師:安田登、6月25日)を行ないましたが、これがおもろかったですね。12世紀のヒルデガルトと20世紀のジョン・ケージ、そして14~15世紀の世阿弥、17~18世紀の芭蕉、いやあ~、みな本質的なところでつながっているんですよ。「身心変容」や「身心変容技法」という補助線を引くと。

共通点は、「メッセージの受信」ということに尽きます。そのメッセージの発信者が誰で、どこで、いつ、どのような内容を、ということは、当然異なってきますし、それぞれの宗教的・文化的文脈があるので、その意味付けや色合いも違ってきますが、彼らは皆「心直し」の新手法を受信し転送し送信した人々です。そして、同時代に大きな影響を与え、それぞれの文化革命を成し遂げたと言えるでしょう。

ヒルデガルトの作曲をした音楽も日常的によく聴きますが、心に染み入ります。ぜひ機会があったら聴いてみてください。いろいろなアレンジで演奏され、CDにもなっています。わたしは20年ほど前にドイツのミュンヘン近郊のキムジー湖の中にあるローマン・カトリックのベネディクト派の修道尼院で「身心変容技法」をテーマにしたワークショップが1週間ほど開かれた時に、そこの修道尼院の売店で2~3枚ほどCDを買って来て、よく聴いているのです。また、ジョン・ケージのプリペアドピアノを使った作品も非常に好きです。二人とも植物や薬草学に詳しく、特にジョン・ケージはキノコ研究のクロートですよ。たいしたものです。

また、6月20日の日曜日には、わが砦のすぐ近くの武田薬品工業株式会社薬草園からyou tubeライブ配信で、「京都伝統文化の森推進協議会」主催の第31回公開オンラインセミナー「祇園祭から読み解く,森に育まれた京の文化」を行ないましたよ。それを以下のURLから、今でも視聴できます。オンデマンド映像として無料視聴が可能です。
2つの講演:https://www.youtube.com/watch?v=p-4p-ec1KEk
ディスカッション①:https://www.youtube.com/watch?v=5Z0j2rn1gxQ
ディスカッション②:https://www.youtube.com/watch?v=hcd3FwNyky8

そこで、「厄除け粽(ちまき)」の原料になる「チマキザザ」(熊笹の一種)の生産と祇園祭りにおける活用の形が議論されました。大変有意義な講演とディスカッションでしたね。「厄除け粽」はまさに感染症対策のお祓い護符です。『古事記』には、アメノウズメノミコトが手に「ササ(小竹葉=笹)」を持って、「神懸り」するとあります。『古事記』を引用しておくと次の箇所です。

「天兒屋命、布刀玉命を召して、天の香山の眞男鹿の肩を内抜きに抜きて、天の香山の天の朱櫻を取りて、占合ひまかなはしめて、天の香山の五百箇眞賢木を根こじにこじて、上枝に八尺の勾璁の五百箇の御統の玉を取り著け、中枝に八尺鏡を取り懸け、下枝に白和幣、青和幣を取り垂でて、この種種の物は、布刀玉命が、太御幣と取り持ちて、天兒屋命、太詔戸言禱き白して、天手力男神、戸の掖に隱り立ちて、天宇受賣命、天の香山の天の日影を手次に繋けて、天の眞拆を鬘として、天の香山の小竹葉を手草に結ひて、天の石屋戸に槽伏せて踏み轟こし、神懸りして、胸乳をかき出で、裳緒を陰に押し垂れき。ここに高天の原動みて、八百萬の神共に咲ひき。」(岩波文庫本)

また、『日本書紀』神代上第七段の天照大神の天の岩窟戸隠れと「禱り」の段には、「チマキのホコ」(茅纒之矟)を手に持って、「天の石窟戸(いはやと)」の前で、巧みに「俳優(わざをぎ)・顕神明之憑談(かむがかり)」するとあります。その本文に、素戔嗚尊の乱暴と天照大神の「磐戸幽居(いはとこもり)」と天石窟戸の前での「禱(いの)り」と天鈿女命の「俳優」と「顕神明之憑談」と素戔嗚尊の「贖罪」と追放が記されています。

「于時、八十萬神、會於天安河邊、計其可禱之方。故、思兼神、深謀遠慮、遂聚常世之長鳴鳥使互長鳴。亦、以手力雄神、立磐戸之側、而中臣連遠祖天兒屋命・忌部遠祖太玉命、掘天香山之五百箇眞坂樹、而上枝懸八坂瓊之五百箇御統、中枝懸八咫鏡(一云、眞經津鏡)、下枝懸靑和幣(和幣、此云尼枳底)・白和幣、相與致其祈禱焉。又、猨女君遠祖天鈿女命、則手持茅纒之矟、立於天石窟戸之前、巧作俳優。亦、以天香山之眞坂樹爲鬘、以蘿(蘿、此云此舸礙)爲手繦(手繦、此云多須枳)而火處燒、覆槽置(覆槽、此云于該)、顯神明之憑談(顯神明之憑談、此云歌牟鵝可梨)。」(岩波文庫本第1巻441頁、書き下し76頁)

ここで問題としたいのは、なぜアメノウズメノミコトは「笹」を手にして踊り、神懸りになったのか? その笹の力、呪力、霊力とは何なのか、という問題です。『古事記』では「ササ」ですが、『日本書紀』では「チマキのホコ」です。この「チマキのホコ」は、「厄除け粽」のチマキとは同じではなく、槍のような鉾(矛)を持って、巧みに「俳優(わざをぎ)」の滑稽なふるまいをして、「顕神明之憑談(かむがかり)」したというのです。これって、ちょっと高千穂神楽とか早池峰神楽など、真剣を使った山伏神楽とも共通する呪術性があると思います。つまり、ササやチマキのホコや剣によって悪霊や災厄を祓うという共通点です。

こうして、天岩戸神話の延長線上に、貞観11年(西暦869年)に「祇園会」(祇園御霊会)が感染症封じとして始まり、そこで「厄除け粽」が作られていくようになったのです。

以下のHPに「厄除け粽」についてのわかりやすい記事があります。
http://www.kyotodeasobo.com/gion/chimaki/

しかしながら、本年、祇園祭の山鉾巡行は残念ながら2年続けて中止となりました。もちろん、コロナ禍の影響です。そのような中でも、神主さんや町の関係諸役の方々による神事(神輿の巡行)は行なわれますが、たくさんの人々が集まって見守る祇園祭りのハイライトともクライマックスとも言える山鉾巡行が行なわれないことはその趣旨からしてもまことに残念なことです。山鉾自体が「厄除け粽」の大型化・山車化したものですので。

加えて、京都の最大の観光となる「祇園祭り」の山鉾巡行が実施できないことは、文化的にも経済的にも大きな打撃をもたらしています。八坂神社のみならず、京都の寺社への参拝者も激減しており、清水商店街や祇園商店街など、清水寺や八坂神社周辺の店舗や飲食店も軒並み大打撃で、耐えきれずに店終いしているところも出てきています。そのような「危機」(災厄・災難)を突破していくためにも、「厄除け粽」が必要なのです。とはいえ、「厄除け粽」は各山鉾巡行会では授与されるようですので、手に入れることも不可能ではないのでまだしもと思います。

わたしの方は、7月には、1日に川崎市民アカデミーの「人間学再論~生老病死の思想」の講座で、「むすびと無常~神道と仏教の死生観」という話をする予定です。そして、7月22日の海の日に、「オンライン大重祭り2021」を行ないます。ぜひこの「オンライン大重祭り2021」のZoom開催に多くの人に参加してほしいと思います。

6月26日 鎌田東二拝

https://phdmoon.sakura.ne.jp/ohshige/index.php/page-13/

大重祭参加方法

7月22日当日のZoom情報(2021年6月21日夏至に日に公開)

みなさま

今日は夏至です。一年の節目の時で、二至二分の一つとしてとても大切にされてきました。

故大重潤一郎監督は、根っからのアニミストで、生命・自然主義者でしたが、常に地球の風を感じ、季節の移ろいを愛でていました。

ちょうど、「オンライン大重祭り2021」の1ヶ月前になりましたので、Zoom情報を公開します。

以下が当日のZoom情報です。

ノイズが入る可能性があるので、トークやパフォーマンスをしている人のマイク以外はすべて原則的にオフにしますのでご理解ください。みなさまのご参加、ご視聴を大変楽しみにしています。

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鎌田 東二さんがあなたを予約されたZoomミーティングに招待しています。

トピック: オンライン大重祭り2021

時間: 2021年7月22日 11:30 PM 大阪、札幌、東京

Zoomミーティングに参加する

https://sophia-ac-jp.zoom.us/j/92066237336

ミーティングID: 920 6623 7336

パスコード: 598535

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無料参加できますので、奮ってご参加ください。 2021年6月21日 世話人代表:鎌田東二

スケジュール

スケジュール案(2021年5月12日時点)

趣旨:未曽有のコロナ禍の中、いのちの讃歌を歌い続けた映像詩人・故大重潤一郎監督の命日に、大重さんの遺志とメッセージを確認しつつ、未来につなぐ橋を架けよう!

スケジュール概要:(11時30分Zoom開室)

12時 法螺貝奉奏・黙祷・読経(約5分 鎌田東二+高橋慈正)
ご挨拶 12時5分~12時20分 開会の辞 鎌田東二+比嘉真人+大重敦子
第一部:それぞれの大重祭りパフォーマンス12時20分~15時00分 (司会進行:神田亜紀・比嘉真人)

出演:

1,久高島より(40分)~演奏とトーク
SUGEE(ジャンベ奏者・音楽家、群馬県館林市在住)
小嶋さちほ(シンガーソングライター、沖縄県南城市在住)
比嘉真人(沖縄映像文化研究所代表、「久高オデッセイ第三部 風章」助監督、沖縄県南城市在住)
内間豊(久高島島民、NPO法人久高島振興会理事、「久高オデッセイ三部作」出演者)

2,大阪より(30分)~舞踊と演奏とトーク
JUN天人(舞踏家・大重映画「縄文」主演、大阪市在住)+岡野弘幹(音楽家・大重映画「縄文」「ビックマウンテンへの道」音楽担当、大阪在住)

3,各地から①(40分)~トーク
島薗進(「久高オデッセイ第三部 風章」制作実行委員会副委員長、上智大学グリーフケア研究所所長、NPO法人東京自由大学学長、東京荻窪在住)
須藤義人(「久高オデッセイ第一部 第二部」助監督、沖縄大学准教授、僧侶、沖縄在住)
矢野智徳(NPO法人杜の園芸、「久高オデッセイ第一部 第二部」出演者、東京在住)
須田郡司(巨石ハンター、「久高オデッセイ」@出雲上映者、出雲在住)
木村はるみ(山梨大学准教授、「久高オデッセイ」等@山梨大学上映者、山梨在住)
門前斐紀(チラシ制作者、金沢青陵大学専任講師、金沢在住)
河合早苗(デザイナー、「唐長」についてのドキュメンタリー映画の製作者、神戸在住)

4,各地から②(40分)~歌とトーク
内田ボブ「鷲の歌」(シンガーソングライター、長野県在住)
渡村マイ(一般社団法人SACLABO代表、静岡県藤枝市在住)
鶴見幸代(『久高オデッセイ第二部 生章』作曲家、茨城県在住)
曽我部晃(音楽家、「ビックマウンテンへの道」DVD製作者、トーク&「風に逆らい」の歌1曲、東京都鶴川在住)
藤川潤司・川原一紗(元「縄文サンバ」・音楽家・シンガーソングライター、熊本県玉名市在住)+藤井芳広(詩人・福岡県糸島市市議会議員、福岡県糸島市在住)

ラビラビ(音楽家)

酒井尚志(パントマイマー、東京在住)
荒井清治(与久呂農園、元久高島留学センター代表、岐阜県郡上八幡在住)
(15分休憩)

第二部:大重映画上映:15時15分~15時45分 予告編各種(約10分)と比嘉真人編「久高オデッセイ」(約10分)と「大重潤一郎訪問インタビュー」(約10分)上映(トータル約30分) (司会進行:高橋慈正・鎌田東二)

第三部:自由トークと閉会の辞15時45分~17時(司会進行:高橋慈正・鎌田東二)
大重生(大重潤一郎長男、「久高オデッセイ第一部」助監督)+坪谷令子(画家、神戸在住)
各地からの自由トーク
鎌田東二(ホラ貝・歌1曲「銀河鉄道の夜」)+ヴィルデあや・ホルン演奏(ホルン奏者、ドイツ・ベルリン在住)

大重祭り呼びかけ人:鎌田東二、比嘉真人、高橋慈正、神田亜紀、大重生、SUGEE、JUN天人