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シンとトニーのムーンサルトレター 第178信

 

 

 第178信

鎌田東二ことTonyさんへ

 Tonyさん、お元気ですか? 新型コロナウイルスが猛威を奮っていますね。8日、中国政府は、湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎で、同日午前0時(日本時間同1時)時点の死者は722人、感染者は3万4546人に増えたと発表しました。新型肺炎の死者数は、2002〜03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の全世界の死者774人に迫る勢いですが、近日中に確実にSARSを抜くでしょう。

 かつてSARSが流行したときも、悪夢を見ているようでした。WHO(世界保健機関)は、「われわれは、今や地球規模で感染症による危機に瀕している。もはやどの国も安全ではない」との警告を発しました。グローバルな世界は、ヒト、モノ、カネが国境を越えて活発に動きます。それだけでなく、テロリスト、武器、麻薬にウイルスといった好ましくないものまで激しく移動します。謎の病原体に地球人類が脅えたわけですが、世界的な疫病といえば、14世紀半ばにヨーロッパ全域を襲ったペストの大流行が思い浮かびます。英仏の百年戦争の開始時期と重なり、暗黒の時代を象徴しました。

 20世紀では、第一次世界大戦中にインフルエンザが突如として登場し、細菌兵器説も出たといいます。21世紀になって初めての戦争がイラクで始まったとたん、SARSが登場しました。どうも、戦争と病気の流行には深い関係があるように思います。SARSの発生国とされ、被害も甚大だった中国では、結婚式や葬儀が禁止になった地域もありました。人が集まると、感染拡大につながるというのです。ある意味で、冠婚葬祭とは平和の象徴なのですね。ともあれ、新型肺炎の犠牲者の方々の御冥福をお祈りするとともに、1日も早い事態の終息を願わずにはいられません。

 ところで、1月22日、東京は亀戸の結婚式場「アンフェリシオン」で、一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)の新年行事が行われました。この日、同所でさまざまな会議や行事が開催されましたが、14時半からは新春講演会が行われました。講演者は上智大学グリーフケア研究所の島薗進所長で、テーマは「グリーフケアが求められる時代」でした。冒頭、儀式継創委員会の浅井秀明委員長(出雲殿社長)が開会挨拶を行いました。浅井委員長は、「現代は、1人ひとりが、自らの生きがいを求める時代、人間らしい死に方を求める時代です。葬儀の現場においても、グリーフケアが必要になっていると言われています。グリーフケアを行うには、グリーフケアの実践を遂行できる知識や援助技術が必要になります。上智大学グリーフケア研究所は、日本で初めてグリーフケアを専門とした教育研究機関で、2009年に設立。グリーフケアの実践を遂行できる専門的な知識・援助技術を備えた人材を育成するノウハウを持っている同研究所から、所長の島薗進先生にご講演いただくことは光栄なことでありかつ意義深いものです。また、講演に続き、ディスカッションも行われるので、グリーフケアが業界の発展にどのように役立っていくのかを聴かせていただけるものと期待しています」と述べられました。

全互協「新春講演会」のようす

全互協「新春講演会」のようすパネルディスカッションのようす

パネルディスカッションのようす
 その後、島薗先生がⅠ「医学・心理学の所見として」、Ⅱ「遠ざかる死と死生の文化」、Ⅲ「グリーフケアの集いの形成」、Ⅳ「東日本大震災と悲嘆のスピリチュアリティ」、Ⅴ「社会関係資本という視点」、Ⅵ「ケア人材育成と社会関係資本」のテーマで講演されました。非常にわかりやすく、グリーフケアの現代性とその可能性、重要性について語って下さいました。参加者はみな、熱心にメモを取っていました。その姿を見て、わたしは「この熱意があれば、互助会業界にグリーフケアが浸透する日も遠くない」と確信しました。

 第二部はパネルディスカッションでした。島薗先生、上智大学グリーフケア研究所の特別研究員である粟津賢太氏とともに、わたしもパネリストとして登壇しました。パネルディスカッションで「グリーフケアが冠婚葬祭互助会にとってなぜ必要になっているのか」について質問されたわたしは、次のように答えました。

 冠婚葬祭互助会は、結婚式と葬儀の施行会社ではなく、冠婚葬祭に係る一切をその事業の目的としています。確かに結婚式と葬儀を中心に発展してきた業界ではありますが、結婚式と葬儀のいずれも従来は近親者や地域社会で行なってきたものが、時代の流れにより対応できなくなり、事業化されてきたとも言えます。

 グリーフケアについても、葬儀後の悲嘆に寄り添うということから考えると、まさに冠婚葬祭の一部分と言えると思います。このグリーフケアについても、従来は近親者や地域社会が寄り添いクリアしてきた部分でしたが、現在その部分がなくなり、今必要とされているのです。「血縁」や「地縁」が希薄化する一方で、遺族会や自助グループに代表される「悲縁」を互助会が育てているとも言えます。

 グリーフケアは、互助会にとって必要なものですが、それはけっして簡単に取り組めるものではなく、大変デリケートなものです。しかしながら、グリーフケアの担い手がなくなり必要とされている現代、人の人生をトータルにサポートするという目的からしても避けて通ることはできません。互助会業界こそ、最もふさわしい担い手ではないでしょうか。災害支援協定などもそうですが、地域の人々が望んでいるや困っていることを担い、それを生業とするのが冠婚葬祭互助会の使命であり、将来的に地域において生き残っていく道だと考えています。

 地方都市においては、一般的に両親は地元に、子息は仕事で都市部に住み離れて暮らす例が多く、夫婦の一方が亡くなって、残された方がグリーフケアを必要とれる状況を目の当たりにすることが増えています。地域社会との交流が減少している中、葬儀から葬儀後において接触することが多く故人のことやその家庭環境が分かっている社員が頼りにされるという状況も増えています。互助会としては、このような状況を放置することはできません。しかしながら、グリーフケアの確かな知識のない中、社員の苦悩も増加しており、グリーフケアを必要とされている方はもちろん、社員そして会社のために必要だと言えます。弊社のケースを見てみても、グリーフケアに取り組むことによって、その重要性を理解した互助会の社員が仕事にプライドを持つことができることを指摘したいと思います。

 グリーフケアは悲嘆への対応ですが、「冠婚葬祭」の中では「葬」と「祭」に関わることが多く、「大切な人を亡くしたこと」に対してどのようなことが出来るかということです。これまでは『葬』の儀式以後に法事法要といった儀式でその一部に対応してきましたが、現在の宗教離れや考え方の多様化によって機能不全に陥ってきたことは否めません。冠婚葬祭互助会は生まれてから「死」を迎えるまで人生の通過儀礼に関わっています。葬儀が終わっても法事法要のお世話など故人だけでなくその家族にも寄り添い続け、また新たな「生」や「死」に対しても家族と一緒に寄り添っていきます。

 「死」以降のサイクルの中で家族をはじめとしたグリーフケアが必要な方にその機会や場所をすることは冠婚葬祭互助会とお客様のつながりを途絶えさせず新たな顧客として囲い込むことが出来るといったメリットがあげられます。他にも冠婚葬祭互助会が人生に必要な儀式やグリーフケアを行うことによって、今まで寺院が担ってきた精神的な欲求を満たすインフラとしての存在価値を冠婚葬祭互助会が担っていくことにもつながってくると考えられます。

 パネルディスカッションの2番目のテーマとして、 「冠婚葬祭互助会がグリーフケアに取り組むことで、地域社会との関係がどのように変わっていくか」が提示されました。それについて、わたしは、以下のように答えました。

 グリーフケアにとどまらず、地域社会が困っていることや必要としていることに関わっていくのは、冠婚葬祭互助会のような地域密着型の企業にとっては事業を永続的に続けていくために必要なことです。それは社会的責任(CSR)を果たすことにつながり、地域に認められる存在となる重要なキーポイントだと思います。グリーフケアに限っても、グリーフケアが必要な人が増加していくことは、地域社会にとって不安要因となったり、地域交流を阻害する要因にもつながりますが、グリーフケアにより地域社会に復帰する人が増えることは、これらの要因を取り除くことになり、地域社会の交流が途絶えることなく継続したり、活発化していくことに繋がるかもしれません。その担い手が冠婚葬祭互助会だと認知されたら、それはまさにCSRを果たし、地域社会に認められる存在へとつながっていくのではないでしょうか。

 さらに、わたしは「互助会が冠婚葬祭のすべてとグリーフケアを行うことによって人が生きていくうえで必要な儀式とケアが行えることになります。古来よりその役目を担ってきた地域の寺院の代わりに不可欠な精神的なインフラとして存在していくことで地域社会に必要なものとして、より根差していけるのではないでしょうか。また、地域ごとにセレモニーホールを持つ冠婚葬祭互助会は寺院が担ってきた地域コミュニティの中心としての存在となり得ることが可能です。それは人と人が関わりあう地域社会の活性化にもつながっていくと考えられます」と述べました。

 三者三様で、グリーフケアについて活発な語り合いが行われ、新春講演会&パネルディスカッションは大いに盛り上がって、無事に幕を閉じました。終了後は盛大な拍手が起こりました。わたしは一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会の副会長、上智大学グリーフケア研究所の客員教授として、両者の間に橋を架けるというミッションがあります。ぜひ、このミッションをきちんと果たし、グリーフケアの資格認定制度をスタートさせ、互助会業界にグリーフケアを普及させたいと思います。

節分祭のようす

節分祭のようす豆まきのようす

豆まきのようす
 それから2月3日は、わが社の松柏園ホテルの顕斎殿で恒例の「節分祭」が行われました。厄除け者や還暦者のための神事を終えた後、サンレーグループの佐久間進会長とわたし、それに還暦者代表らで豆まきをしました。豆と一緒に、餅や5円玉も一緒にまきました。5円玉はこの世が多くの「ご縁」で満ちる有縁社会を願ってまきました。

 その後、同ホテルで「合同還暦・厄除け祝い」が開催されました。わが社の創業以来の恒例行事である「合同還暦祝い」と「合同厄除け祝い」が今年から合体したのです。料理やお酒を楽しみながら、さまざまな行事やアトラクションが行われましたが、最後はカラオケ大会です。わたしも大トリで歌いました。昨年は北島三郎の「まつり」を熱唱したのですが、今年はネズミ年の年男にちなんで、ブルーハーツの「リンダリンダ」を歌いました♪

還暦・厄除け祝いのようす

還暦・厄除け祝いのようす「リンダリンダ」を熱唱!

「リンダリンダ」を熱唱!
 赤鬼に扮した社員が、ステージ上のわたしに赤いマフラーとハットを届けてくれました。わたしは赤いマフラーを首に巻くと同時に、アントニオ猪木ばりに「元気ですか〜ッ!」とブチかましました。「ドブネズミみたいに〜♪」と歌ったのでありました。たしか、「リンダリンダ」はTonyさんも歌われたことがありますよね。今度、またカラオケで一緒に歌いたいですね!

2020年2月9日 一条真也拝

一条真也ことShinさんへ

 この2週間、いたるところ新型コロナウィルスの話題で沸騰しています。武漢から激震が走り、揺るがせています。パンデミックにならないよう祈りますが、中国も日本もどのように抑え込むのでしょうか。冬季に感染拡大しても、季節が巡り、春になり、夏になると、おのずと感染が自然に収まってゆくのでしょうか? 日本にも感染が拡大しているので、どうなるのかわからない状況です。本当に1ヶ月先が予測できません。産業や観光や流通や交通や経済にも大きな影響を与えつつあります。

 3月末に、ベトナムとラオスの4つの国立大学に講義に行く予定で準備を進めていましたが、今回の新型コロナウィルスの流行による影響で9月以降の来年度に延期になりました。わたしは毎週のように新幹線と中央線で東京・四ツ谷に、叡電・京阪電車で大阪に行っていますが、そこでたくさんの人がマスクを着けて感染予防をしているのを見ています。時にはピリピリした雰囲気も感じます。感染拡大を防ぐだけでなく、差別やヘイトの拡大も気をつけなければならないと思います。

 「みなさん 天気は死にました」で始まる『狂天慟地』を出したのは、去年、2019年9月1日でした。この1年、何とか「狂天慟地」の世界を生き抜いていく準備と覚悟を固めたいと思っていましたが、何とも脆弱で、オオカミ少年のような心境です。医者でも科学者でもなく、実務能力ゼロの「バク転神道ソングライター」。アリとキリギリスで言えば、キリギリスでしかない存在。そんなキリギリスでもできることがあるのだろうか? いつもそんなことを考えながら、比叡山に上り下りしています。今日も先ほど比叡山に登拝してきました。その比叡山登拝もまもなく600回を超えます。

 このところ、身近なところで、1月に3人の訃報に接しました。義兄(妻の兄)が73歳で虚血性心不全で急死し、東京の常盤台で通夜と告別式をしました。通夜の時、横笛を奏して故人を偲びました。昨年7月には姪の夫が41歳で動脈瘤破裂で突然死し、家族は悲嘆に暮れました。悲嘆のさ中、姉が年末に肋骨三本を骨折し、頸の骨を痛める大怪我をし、入院3ヶ月目です。その実姉を見舞いに1月末に徳島に帰りました。また、上智大学グリーフケア研究所の受講生やNPO法人東京自由大学の受講生の方も相次いで倒れ、周りの者は悲嘆に見舞われました。授業時に全員で黙祷したり、横笛を奉奏したりしましたが、祈りを凝らしても関係者の悲しみが消えるわけではありません。しかしまた、そうであるがゆえに、そうであればこそ、グリーフケアや鎮魂の儀式も、さまざまなワザも必要だと痛感しています。

 徳島に帰った際、阿南市福井町大宮の神宮寺と隣接する大宮八幡神社を参拝しました。じつは、神宮寺には、京都大学名誉教授で高名な宗教哲学者の上田閑照先生ご夫妻のご位牌があります。上田閑照先生の実弟の樫本高明さんがここのお寺の先代住職で、今は子息の樫本慈弘さんが住職を継いでいます。

 上田閑照先生の著作『哲学コレクションⅤ 道程—思索の風景』(岩波現代文庫、2008年)の中に、「第二部 道の風景」「二郎のこと」というエッセイが収められています。その「二郎」さんが上田閑照先生の弟の樫本高明さんです。その弟の二郎さんがなぜこの徳島県阿南市の片田舎のお寺の住職を継ぐことになったのかが詳しく記されていますのでぜひ読んでみてください。

 昨年の10月、母の13回忌があり、帰省した足で神宮寺を参拝し、上田閑照先生のご位牌にもお焼香をする予定でしたが、台風の影響でバスや列車などが全面ストップになってしまい、徳島に帰省することができませんでした。そんなこともあり、延期せざるを得なかったのですが、ようやくにして神宮寺と上田閑照先生のご位牌をお参りすることができました。

上田閑照先生の著作『哲学コレクションⅤ 道程—思索の風景』(岩波現代文庫、2008年)
 現住職の樫本慈弘さんは、アムネスティ・ジャパンの事務局長やグリーンピースの広報部長なども務めてきた熱心な社会活動家でもあり、2019年6月28日に上田閑照先生が亡くなられ、京都大学百周年時計台記念館でお別れ会が開催された時の喪主も務められました。

◎上田閑照氏が死去 京都大名誉教授 2019/7/11 15:20
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47233920R10C19A7AC8000/

 上田閑照氏(うえだ・しずてる=京都大名誉教授)6月28日、肺炎のため死去、93歳。お別れの会は8月25日午後1時30分から京都市左京区吉田本町の京都大百周年時計台記念館。喪主はおい、樫本慈弘氏。
 専門は宗教哲学。ドイツ神秘主義や西田幾多郎の研究などで知られた。2018年文化功労者。

 上田閑照先生の位牌の戒名は、「閑照院天上独尊居士」というもので、その戒名は京都相国寺派僧堂住職による命名とのことでした。樫本慈弘住職の読経の声が響き渡る中、お焼香し、その後わが三種の神器の石笛・横笛・法螺貝を奉奏しました。その後、隣接した大宮八幡神社を樫本住職さんの案内で参拝しましたが、見事なタブの木と樹齢2000年の大楠にはたまげました。となりのトトロが棲んでいるような大楠の根っこの洞でした。ここになら、トトロもいるんじゃないかと思ったくらい。すごいですよ、ほんと。すっかり、気持ちが明るくなりました。吾はトトロに会いたい! 喜びの法螺貝を鳴り響かせました。

 明るくなった気持ちで、福井町の先端部の岬の突端の椿泊に行き、佐田神社とそこに隣接する福蔵寺を参拝しました。言うまでもなく、佐田神社の祭神は「猿田彦大神」で、日本列島の各地にある佐田岬などは、その猿田彦大神伝承と密接につながっています。紀伊水道から太平洋に入っていく海を見、何とも言えぬノスタルジアに浸りながら、古代から変わらぬ海の道の流れを想起しました。しかし、その海の流れも、昨今の気候変動で大きく変わりつつあるのが気になります。

 『翁童論—子どもと老人の精神誌』(新曜社、1988年)のあとがきや、『日本人は死んだらどこへ行くのか』(PHP新書、2017年)の中にもいくらか書きましたが、わたしの祖母は、わたしとは血のつながりはありません。祖父の五度目か六度目の後妻になりました。彼女は椿泊の阿利家の出です。なぜか聞き漏らしましたが、若い頃徳島に出て芸者となり、故郷の椿泊に帰っていたところ祖父に見初められて後妻に入ったとか。

 わたしはその祖母を血のつながりのある本当の祖母だと思って育ちました。子どもの頃に、そのことを疑ったことは一度もありません。が、おかしいな、と思ったのは、中学一年か二年の頃、わたしが風邪か何か高熱を出して臥せっている時、枕元に来て突然祖母が「うちはおまえのほんまのばあちゃんじょ」と言ったのです。そんな当たり前のことをなぜことさらに言うのかと訝しく思ったのがきっかけで、その後一年ほどする間に、祖母が後妻であったという事実が徐々に分かりかけて来ました。

 祖父は脳卒中で十年以上寝た切り生活でした。祖母は本当に心細かったし、さみしかったのだと思います。わたしがその祖母に人質のようにとられて、父母や兄姉たちのいる母屋から離れた隠居部屋で、寝たきりの祖父と祖母と一緒に生活していたのでした。右には祖父、左には祖母。わたしは小学校を出るくらいまで、祖母と一緒の蒲団に寝ていました。その祖母が三味線を弾き、小唄や端唄や長唄を唄うのを聴きながらわたしは育ったわけです。そして時折、祖母に連れられて徳島の三味線屋に三味線の弦を買いに行き、かつての芸者仲間が経営している店に泊めてもらい、翌日には新町側の麓の「はしもと」という徳島一の蕎麦屋で生そばを食べて帰るというのが習いでした。

 その祖母に連れられて、子どもの頃、椿泊に来たことが忘れられないとてもとてもなつかしい想い出となっています。それ以前、ほんの3‐4歳の子供の頃、祖母に連れられた桑野町の隣の橘町に行って船に乗った時(多分、椿泊に行くために)、「ぼくはこの船に乗ってアメリカに行くんだ」(もちろん方言ででしょうね)と言ったそうで、祖母はよくその話をしていました。よほど驚いたらしいですね。こんな小さな子が、こんな小さな船に乗って、一寸法師のようにアメリカに行くという、その無謀な妄想に。

 しかし、そんなわたしの無謀な妄想力は、たしかに血のつながらない芸者の祖母によって注力され促進されていたと思っています。わたしの思考や嗜好の中には祖母の「型」が間違いなく入り込んでいると思うからです。そのいとおしい祖母が生まれ育った海辺の漁師町の椿泊に行くことができて、感無量でした。海辺の突端で、法螺貝を吹き鳴らしました。祖母の霊に届けとばかり。ちょっぴり、しんみりしちゃいましたね。

 椿泊ではすっかり感傷に浸ってしまいましたが、しかし、現状を見ると、オーストラリアの山火事、各所の地震や噴火、湖北省武漢で発生した新型コロナウィルスの流行、いろいろな心配事が重なり、世界の先行きに先行きの見えぬ暗雲が垂れ込めている昨今です。けれども、そのような時にこそ、未来につながる祈りや願いや希望も忘れてはならないと上田閑照先生の位牌を前に心に深く誓いました。いたずらに悲観的にならず、しかし甘い期待や願望は横に置いてリアルに物事を見、対処していく。そんなプラグマティズムが必要だと思っています。

 ところで、先回のレターにも書きましたが、わたしは2月中旬から3月下旬にかけて以下の4冊の本を出します。去年までに、3冊の詩集、「神話詩三部作」(『常世の時軸』思潮社、『夢通分娩』『狂天慟地』土曜美術社出版販売)を出すのに憑りつかれていて、いろいろと作業が遅れに遅れたために、まったく偶然ですが、出版時期が重なってしまいました。

 ◎鎌田東二『南方熊楠と宮沢賢治——日本的スピリチュリティの系譜』平凡社新書、2020年2月14日刊
 ◎鎌田東二・ハナムラチカヒロ対談集『ヒューマンスケールを超えて〜わたし・聖地・地球(ガイア)』ぷねうま舎,2020年2月25日刊
 ◎鎌田東二監修・渋谷申博著『神社に秘められた日本書紀の謎』宝島社、2020年2月26日刊
 ◎京都伝統文化の森推進協議会編『京都の森と文化』ナカニシヤ出版、2020年3月26日刊

 この4冊です。『南方熊楠と宮沢賢治』平凡社新書は、今日、2月14日には店頭に並んでいるはずです。ホリスティックでスピリチュアルな観点をフル展開した二人の巨星についての評伝です。ぜひ読んで書評してほしいと思います。

 また、『ヒューマンスケールを超えて』の方は、2月21日(金)に青山ブックセンターで対談者のハナムラチカヒロさんとトークイベントを行ない、2月26日(水)夜19時から一乗寺の恵文社で同じくハナムラさんとトークイベントを行ないます。こちらも、ホリスティックで、スピリチュアルな観点をフル展開しております。

◆トークイベント概要
http://www.aoyamabc.jp/event/humanscale/
日程: 2020年2月21日 (金)
時間: 19:00〜20:30 開場:18:30〜 料金:1,540円(税込)
定員: 50名様
会場: 青山ブックセンター本店内 小教室

◆トークイベント概要
http://www.cottage-keibunsha.com/events/20200226-2/
【日時】2020年2月26日(水)開場18:30/開演19:00(閉場20:30)
【入場料】500円(お茶付き)
【出演】鎌田東二 ×ハナムラチカヒロ

『南方熊楠と宮沢賢治 日本的スピリチュアリティの系譜』平凡社新書/鎌田東二〔新書〕
『南方熊楠と宮沢賢治 日本的スピリチュアリティの系譜』平凡社新書/鎌田東二〔新書〕

JANコード/ISBNコード:9784582859331
鎌田東二
出版社:平凡社
発行年月日:2020年02月14日

◆内容紹介
明治・大正期、日本では近代国家形成に伴う独特の解放感が生まれていた。宗教や伝統社会への自由な問い直し。そして、自然と人間を繋ぐ神秘の探求。そのなかで、ひときわ輝きを放つ二つの知的巨星があった。
和歌山・熊野の地で独自の民俗学を展開した南方熊楠。
岩手・花巻にあって農本主義的表現を志した宮沢賢治。
彼らがそれぞれに探求した「世界の真実」の、共通点と違いは何だろうか。
自然/人間精神の総合的な智=「生態智」を見抜かんとし、当時最新の西洋思想をも援用して挑んだ二つの知性とは。日本のスピリチュアリズムにおける最高到達点の秘密を探る!

『ヒューマンスケールを超えてーーわたし・聖地・地球(ガイア)』
『ヒューマンスケールを超えてーーわたし・聖地・地球(ガイア)』

鎌田東二(著/文)ハナムラチカヒロ(著/文)
発行:ぷねうま舎
四六判
価格 2,300円+税
ISBN 978-4-910154-02-2
Cコード C0014
初版年月日:2020年2月25日
発売日 :2020年2月25日

◆内容紹介
「もう何をやっても地球は長くは保たないのではないか」。今日、そんな想像が誰の頭の中にも浮かび始めている。だが今の文明にはもはやオルタナティブが用意されていない。「持続可能な開発」という題目だけは勇ましく唱えられているが、その〝持続可能〟が何を意味するのかは曖昧だ。そんな危機的な状況にもかかわらず一向に希望が見えてこないのはなぜなのか。宗教学者と気鋭のランドスケープデザイナーが、デザイン、聖地、生命、地球など様々なスケールを駆使して、〝わたし〟や社会、文明のあり方を問う対話の書。

◆目次
第1章 私という現象 「人生とは演技の連続である」
第2章 異化するデザイン 「見方を変えると風景が変わる」
第3章 メタノイア 「自分のあり方を転換する」
第4章 意識の進化 「スケールが変わると正解が変わる」
第5章 聖地の創造 「生命力を活性化させる場所」
第6章 生命のリズム 「両極を行き来して進む」
第7章 宇宙の縮図 「聖地から宇宙を見上げる」
第8章 母なる地球 「太陽の原理から月の原理へ」

◆著者プロフィール
・鎌田東二
1951年生まれ。文学博士。上智大学グリーフケア研究所特任教授、京都大学名誉教授。宗教哲学、比較文明学、民俗学、日本思想史、人体科学などを幅広く研究。著書に『神界のフィールドワーク』(青弓社)『超訳古事記』(ミシマ社)『歌と宗教』(ポプラ社)『聖地感覚』(角川ソフィア文庫)『世阿弥——身心変容技法の思想』(青土社)『言霊の思想』(同)ほか多数。
・ハナムラチカヒロ
1976年生まれ。博士(緑地環境科学)。大阪府立大学21世紀科学研究機構准教授。ランドスケープデザインとコミュニケーションデザインをベースにした風景異化論をもとに、空間アートの制作、映像や舞台などでのパフォーマンスも行う。著書に『まなざしのデザイン——〈世界の見方〉を変える方法』(NTT出版)ほか。『霧はれて光きたる春』で第1回日本空間デザイン大賞・日本経済新聞社賞受賞。

『カラー版 神社に秘められた日本書紀の謎』【宝島社新書】鎌田東二/監修 渋谷申博
出版社名: 宝島社
発売予定日: 2020年2月26日

◆おすすめコメント
2020年は『日本書紀』編纂1300年の年!! 関連本や関連イベントなど、『日本書紀』に注目が集まっています。本書は、わかりやすい言葉遣いとオールカラーの豊富な写真による解説で、初心者でも手に取れる内容となっています。もちろん、古代史好きの読者も満足できるよう、『古事記』と比較しながら、残された伝承や文化財などから『日本書紀』の謎を紐解いていきます。巻末には、関連する神社のガイド付き。

京都伝統文化の森推進協議会編『京都の森と文化』ナカニシヤ出版、2020年3月26日刊
京都伝統文化の森推進協議会編『京都の森と文化』ナカニシヤ出版、2020年3月26日刊

◆内容紹介
古都京都を育み、世界からも注目される三山の森を守る!
三山の成り立ち、森林を襲う危機の実態、保全活動の成果と課題、その文化的価値、都市や人々とのつながり……、京都三山を巡る最新最上の自然科学と人文学の成果を収録。

◆著者について
京都伝統文化の森推進協議会
宗教学者・評論家の山折哲雄氏が設立発起人代表となり、平成19年に設立された。
再生不能の危機に直面していた京都三山を、世界遺産の清水寺、青蓮院門跡、高台寺、祇園商店街振興組合、そして林野庁近畿中国森林管理局からの協力を得て、伝統に則った森づくりを行い、京都の森を蘇らせる事業を展開している。

◆執筆順
鎌田東二 京都伝統文化の森推進協議会会長。上智大学グリーフケア研究所特任教授・京都大学名誉教授。著作:『言霊の思想』(青土社)、他。
勝占 保 林野庁近畿中国森林管理局京都大阪森林管理事務所長。
森本幸裕 公益財団法人 京都市都市緑化協会理事長。京都大学名誉教授。
原田憲一 元至誠館大学学長。著作:『地球について』(国際書院)、他。
中川要之助 応用自然史研究室「人と大地」室長。著作:『人と暮らしと大地の科学』(法政出版)、他。
高原 光 京都府立大学大学院生命環境科学研究科教授。著作:『シリーズ現代の生態学2 地球環境変動の生態学』〔共著〕(共立出版)、他。
黒田慶子 神戸大学大学院農学研究科教授。
高田研一 NPO法人森林再生支援センター常務理事。
安藤 信 公益財団法人 阪本奨学会理事。著作:『森林フィールドサイエンス』〔共著〕(朝倉書店)、他。
高桑 進 京都女子大学名誉教授。著作:『京都北山 京女の森』(ナカニシヤ出版)、他。
丘 眞奈美 合同会社京都ジャーナリズム歴史文化研究所代表。歴史作家。著作:『松尾大社~神秘と伝承~』(淡交社)、他。
梶川敏夫 京都女子大学文学部非常勤講師。元京都市考古資料館館長。著作:『よみがえる古代京都の風景—復元イラストから見る古代の京都—』、他。
吉岡 洋 京都大学こころの未来研究センター特定教授。
高橋義人 平安女学院大学国際観光学部特任教授。京都大学名誉教授。著作:『悪魔の神話学』(岩波書店)、他。
広井良典 京都大学こころの未来研究センター教授。著作:『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社)、他。
田中和博 京都先端科学大学バイオ環境学部学部長。著作:『古都の森を守り活かす—モデルフォレスト京都—』〔編著〕(京都大学学術出版会)、他。
◆コラム
近藤高弘 陶芸・美術作家
大西宏志 京都造形芸術大学教授
◆特別寄稿
大西真興 清水寺執事長。
山折哲雄 京都伝統文化の森推進協議会初代会長。宗教学者。
北村典生 祇園商店街振興組合理事長。いづ重主人。
単行本: 304ページ
出版社: ナカニシヤ出版 (2020/3/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4779514584
ISBN-13: 978-4779514586
発売日: 2020/3/26

京都の森と文化
 ところで、以下のミシマ社発行のウェッブマガジンである「ミシママガジン」を読んでみてください。たぶん、大いに笑えると思います。吾は人に笑われるリッパなニンゲンになりたい! 嗚呼!
https://www.mishimaga.com/books/tokushu/001627.html
https://www.mishimaga.com/books/tokushu/001633.html

 2020年2月14日 鎌田東二拝