シンとトニーのムーンサルトレター 第181信
- 2020.05.07
- ムーンサルトレター
第181信
鎌田東二ことTonyさんへ
Tonyさん、今年の大型連休はいかがお過ごしでしたか? 4日に緊急事態宣言が延長されましたが、多くの国民が自宅で連休を過ごしたのではないでしょうか。わたしも自宅で本を読んだり、原稿を書いたりしましたが、DVDで映画も観ました。
連休前には、未知のウイルス感染をテーマにしたSF映画をまとめて観ました。玉石混交の作品群の中で日本映画の「復活の日」(1980年)、ハリウッド映画の「アウトブレイク」(1995年)、「コンテイジョン」(2011年)の3本が秀逸でした。
最初の「復活の日」は角川映画で、原作は日本SF界の巨匠・小松左京です。主演は草刈正雄、オリビア・ハッセ—。細菌兵器によって全世界はパニックとなり、45億人の人類が死亡する物語です。氷に閉ざされた南極大陸には863人の探検隊員が残され、滅亡寸前まで追いこまれた人類が生き残るドラマが壮大なスケールで描かれます。新型ウイルスに加えて、巨大地震、核兵器・・・・・・「これでもか」とばかりに人類に超弩級の波状攻撃が与えられていきます。
原作小説『復活の日』を小松左京が書いたのは1964年。東京オリンピックの年でした。原作では、大相撲やプロ野球が短縮されたり中止になったりします。映画の中のウイルスの画像は新型コロナに酷似しています。イタリアで感染拡大して「イタリア風邪」と呼ばれるのですが、そのうち「新型ウイルス」という名前が付きます。最初は咳が出るので単なる風邪かと思ってしまうのも新型コロナにそっくり。感染は医療関係者にまで拡がり、医療崩壊を招き、ついには日本全土に戒厳令が発令されます。そして、感染は世界中に拡大されて人類が存亡の危機を迎えるのでした。あまりにも映画の描写が現在の状況と似ているので、怖くなってきます。小松左京は予言者だったのでしょうか?
次に「アウトブレイク」ですが、アフリカで発生した非常に致死性の高いウイルスによる未曾有の「バイオハザード(微生物災害)」に立ち向かう人々を描きます。「アウトブレイク(Outbreak)」とは、疫学用語の1つです。医学・医療の分野において悪疫(たちの悪い疾病)・感染症の突発的発生を意味します。通例、感染症に対して用います。
エボラ出血熱の流行にインスパイアされたことが明らかな内容ですが、森林伐採という環境破壊もテーマとなっています。『感染症の世界史』石弘之著(角川ソフィア文庫)には、映画「アウトブレイク」にも言及して、「過去のエボラ出血熱の流行の大部分は熱帯林内の集落で発生した。だが、ギニアの奥地でも人口の急増で森林が伐採されて集落や農地が広がってきた。森林の奥深くでひっそり暮らしていたオオコウモリが、生息地の破壊で追い出されてエボラ出血熱ウイルスをばらまいたのかもしれない。映画『アウトブレイク』のなかで、アフリカの呪術師のこんな言葉が引用されている。『本来人が近づくべきでない場所で人が木々を切り倒したために、目を覚ました神々が怒って罰として病気を与えた』」と書かれています。
エボラ出血熱の流行は大規模な自然破壊の直後に発生することが多いとして、石氏は「近年は中国が西アフリカの地下資源開発に巨額な投資をしており、採掘、搬出道路、労働者の宿舎などのために森林破壊が加速している。エボラ出血熱が流行している西アフリカだけで2万人を超える中国人が働いている。中国は2009年に米国を抜いて、アフリカの最大の貿易国になった」と述べています。
中国といえば、大気汚染大国として知られています。大気汚染は森林伐採と並ぶ重大な環境問題ですが、新型コロナウイルスの感染拡大で中国の大気汚染が劇的に改善されていることがわかりました。これまで中国は大気汚染対策に力を入れてきましたが、依然として世界の中で最悪級にランクされていました。世界保健機関(WHO)の推計では、汚染された大気に含まれる微小粒子状物質のために死亡する人は年間およそ700万人に上りました。しかし、米スタンフォード大学の研究者は、中国が新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために打ち出した厳重な対策のおかげで大気汚染が改善され、5万〜7万5000人が早死にリスクから救われた可能性があるという推計をまとめたのです。新型コロナウイルスによって地球の大気が浄化されたわけで、こうなると、ウイルスの発生および感染拡大とは「地球の逆襲」ではないのかとも思えてきますね。
そして、「コンテイジョン」です。日本で東日本大震災が発生した2011年に公開されたこの映画は、新型コロナウイルスによるパンデミックを最も予言していた内容として、大きな注目を浴びています。「コンテイジョン(Contagion)」とは「感染」という意味です。中国の武漢から始まったとされる新型コロナウイルスの感染拡大は「パンデミック」(感染の世界的大流行)にまで発展したわけですが、日に日に悪化していく状況の中で、「まるで映画のような展開だ」と思っている方は多いでしょう。まさに、そこでイメージされるパンデミック映画がこの「コンテイジョン」です。この映画を観れば、誰でも「現在のコロナ騒動を的確に予言している」ことに驚くでしょう。そして、ウイルスや感染症についての基本的な知識がコンパクトに得られます。ドラマの形でインプットすると、テレビのニュース番組の解説などよりもずっと理解しやすいです。感染経路の追跡も非常にわかりやすい。しかも、ご丁寧なことに、「コンテイジョン」のDVDには「解説:ウイルス感染の仕組み」という特典まで付いています。
現在、新型コロナウイルスが人類社会を脅かしているわけですが、わたしは、ウイルスは愛に似ていると思います。奇妙なことを言うようですが、ウイルスも愛も目に見えないという共通点を持っています。フランスの作家サン=テグジュペリは『星の王子さま』で、「大切なものは目には見えない」と述べました。そこで彼が言いたかった「大切なもの」とは、ずばり「愛」のことでしょう。愛も目に見えませんが、ウイルスも目に見えません。目に見えない「愛」ですが、「かたち」として可視化することはできます。たとえば、ハグやキスやセックスです。また、結婚式や葬儀といった儀式です。
それらの愛が「かたち」にするものをウイルスは無化することができます。ウイルスは、愛する者同士にハグをさせません。恋人同士にキスもセックスもさせません。そして、結婚式や葬儀といった大切な儀式を葬り去ってしまいます。映画「コンテイジョン」では、土葬すらできず、クリスチャンでありながら火葬せざるをえないというシーンも登場します。ネアンデルタール人以来の埋葬という文化さえ、ウイルスは葬ってしまうのです。まさに「目に見えないもの」の正のメタファーが愛なら、ウイルスは負のメタファーです。
この「コンテイジョン」の冒頭では、グウィネス・パルトロウ扮する香港出張帰りのベス・エムホフというキャリアウーマンがいきなり発症し、病院で無残に開頭される驚愕のシーンが登場します。このべスには、ミッチ・エムホフ(マット・デイモン)という夫に娘と息子がいましたが、出張先で元恋人と不倫をします。普通はあまりSF映画には使われない不倫という設定がこの映画に物語としての深みを与えていると言えますが、彼女にはウイルス感染による死という「罰」が待っていました。ここに、わたしは「愛」と「ウイルス」が交錯したダブル・メタファーを感じます。ベスの夫ミッチは容態が急変した妻を慌てて病院に運びますが、ベスは死因不明で病死してしまいます。医師から妻の死を説明されてもまったく現実を認識できない夫が、「で、いつ妻に会えるんです?」と医師に聞き返すシーンが生々しく、大きなグリーフを感じさせました。グリーフケアも愛と不可分の関係にあります。愛のないところにはグリーフケアなど必要ないからです。
以上、「復活の日」「アウトブレイク」「コンテイジョン」と3本のウイルス感染シネマについての感想です。Tonyさんにも3作品のDVDを送らせていただきましたが、ぜひ感想をお聞かせ願えればと思います。
ところで、SF映画における人類の強敵といえば、未知のウイルスの他にエイリアンが思い浮かびます。エイリアンはUFOに乗って地球に来ると信じている人が多いですが、最近、UFOが大きな話題になりましたね。4月28日、米国防総省が、海軍が撮影した「謎の空中現象」として、未確認飛行物体(UFO)のような円盤状の物体が雲の上を高速で飛んでいるような様子が記録されている3種類の映像を公開したという報道が各種メディアで流れました。
このところ支持率が急速に低下しているトランプ政権が米国民の「注意そらし」をしたのではないかという見方が一般的ですが、米国防総省が公開したUFO画像について、日本の河野太郎防衛大臣がコメントを出しました。河野防衛相は28日午前の記者会見で、自衛隊がUFOに遭遇した際に備えて「(対応の)手順をしっかり定めたい」と述べました。米海軍が撮影した3種の映像はすでに広く知られたものですが、どうして今頃、米国防総省が正式公開し、「正体は分からないままだ」などと発表したのか。しかも、国内での感染者がついに100万人を超えて、アメリカが大変な時期に!
いろいろと推測できますが、いくつかの見方を示したいと思います。まずは、感染拡大で外出自粛している国民に「謎」や「ミステリー」や「ロマン」といった娯楽を提供したのではないかということです。なんでも、人はワクワクすればするほど、免疫力が上がるそうですから。
しかし、「神話なき国」であるアメリカにとって、UFOやエイリアンといった存在はまさに「現代の神話」であり、TVドラマの影響もあってエイリアンによるアブダクション(誘拐)を心から恐れる米国民は多いです。というわけで、娯楽というよりも恐怖を提供したとの見方もありますが・・・・・・。
別の見方もあります。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、WHOは「パンデミック」を宣言しました。これを陽にとらえて前向きに考えた場合、世界中のすべての人々が国家や民族や宗教を超えて、「自分たちは地球に棲む人類の一員なのだ」と自覚したということが言えるでしょう。そして、今回のUFO映像の公開は、その自覚を強化させる目的があるのではないかということです。何事も陽にとらえる主義のわたしとしては、この平和的メッセージであったと信じたいところです。
ヤフー・ニュース(CNN)より
ヤフー・ニュース(産経新聞)より
Tonyさんは、米国防総省が公開したUFO画像について、どう思われますか? また、ユングはUFOについて「集合的無意識の投影」と分析しましたが、TonyさんはUFOの正体についてどのようにお考えですか? ぜひ、お考えをお聞かせ願えれば幸いです。それでは次の満月まで、オルボワール!
2020年5月7日 一条真也拝
一条真也ことShinさんへ
今宵5月7日の満月はことのほか美しく澄明です。特に今日の満月は「フラワームーン」とか「Mother’s Moon」とかと言うようですね。満月の時刻は19時45分。世界全体がCOVID19(新型コロナウイルス)の感染拡大で大混乱し大騒ぎしているのとはまるで正反対のような澄んだ毅然とした美しさを感じました。しばらく空を見上げてため息をついていたほどです。なぜこんなに透明で美しいのか、と。
さて、この前のムーンサルトレターのやり取りをしたのが、4月8日でした。それからおよそ1ヶ月ですが、この1ヶ月比叡山にはしばしば登りましたが、街中に下りていくことはほとんどなく、ましてや東京や大阪に行くこともこの1ヶ月一度もありませんでした。こんなことは京都に住み始めて17年になりますが、初めてのことです。これほど移動距離が少なく、公共交通機関に乗ることもなく、ほぼすべて徒歩の毎日というのは。
でも、それ自体はそれほど苦ではありません。比叡山に上り下りすることがわたしの生活の基軸ですので、その基軸は変わることがありませんから。浮世離れしているとは思いませんが、比叡山に近いだけ、憂き世から浮いているかもしれません。
浮いていると言えば、UFOですが、Shinさんは米国国防総省のUFO公開に興味津々ですね。なぜこの今になって、過去の情報を公開したのか? わたしは通説の多くと同様に、大変シンプルに、トランプ政権の目くらましだと思っています。新型コロナウイルスの感染拡大で膨れ上がる社会不安や恐怖心をずらし、スライドさせ、違う角度から国防的な防衛意識を強化するための情報戦略ではないか、と。
米国国防総省が公開したUFOが本物の宇宙船なのかドローンのようなただの未確認飛行物体に過ぎない飛行物なのかどうかははよくわかりません。が、わたし自身は、子どもの頃から宇宙人はいる、存在すると思ってきましたので、その考えに今も変わりがあるわけではありません。すべての現象はすべて縁とめぐりだと思いますが、なぜこのタイミング化はいろいろと深掘り解釈があってもいいタイミングですね。そんなあれこれの解釈可能性が国民の注意逸らしになり、結果的に自己免疫力を高めることになったり、防衛的な国民意識の統合強化をはかることになったり、アセンションにもつながる世界秩序と状況変化や次元転換を促進することになったりと、抑制効果というより、躁状態を生み出す仕掛けでもあると思います。
ムーンサルトレターでも繰り返し縷々述べてきたたように、わたしは昔から「スパイラル史観=現代大中世論」を持論としているので、すべては波、めぐりあわせ、縁だと思っています。それを神縁とか仏縁と言うこともできなくはありません。
わたしはこれまでに3回UFOを目撃しています。わたしの友人は至近距離(10メートルくらいの距離)でUFOが地面に着陸してくるのを観ました。猫と一緒に。伊豆の弓ヶ浜で。その前夜、わたしもその友人と一緒にUFOの50機くらいの編成の大群を1時間以上にわたって見ました。40年近く前のことです。その友人戸田遊君は肺癌で亡くなってしまいました。ので、今となって、再度確かめようがありませんが、わたしはその友人を信用しているので、そのようなことがあったのだと思っています。が、わたし自身は、残念ながらUFOの着陸場面を見ておらず、話を聞いただけです。前夜に見たのは、弓ヶ浜の沖上で奇妙な空中浮遊や飛行をするUFOの大群でしたね。今のサバクトビバッタの大群と似ているような気もします。
ところで、ShinさんよりDVD3作品を送っていただきました。お心遣い、まことにありがとうございました。早速、まず最初に、『復活の日』(1980年)を観ました。面白かったですが、リアルというよりも、ドラマチックすぎて、とても非現実的でしたね。それはそれでいいのですが、どうも『猿の惑星』ぽい感じで、白けるところもありました。Shinさんも知ってのとおり、わたしはどうしようもない筋金入りの『2001年宇宙の旅』派ですので、『猿の惑星』のようなラストシーンは面白いとは思うけれども、イマイチで深み(深遠さ)がないと思ってしまうのです。しかし、この『復活の日』は『猿の惑星』のような人類史的絶望ではなく、人類史的希望(「Life is wonderful!」)をラストで描いていましたが、取ってつけたような感じがしました。
50年ほど前の昔、わたしは1970年代のはじめに、小松左京のSF小説をかなり読みました。『復活の日』ももちろん読みましたが、映画よりも小説の方が断然よいと思います。小説的想像力と映画的描写力はミスマッチするとちゃっちくなります。細菌兵器として開発されたウイルスが感染拡大してパンデミックになるという設定も、残念ながら安易に思えました。が、草刈正雄が新鮮だったこと、またその相手役の長身の大佐が渋かったこと、この2点はよかったですね。
つづいて、『アウトブレイク』『コンテイジョン』の順で観ました。両作とも製作年代がまだ現在に近いということもあってか、それなりにリアリティを感じました。どちらも、ハリウッド的なメリハリのある映画で、深みはないけれども、今の新型コロナウイルスの感染拡大と相似するところがあり、ウイルスによるオーバーシュートやパンデミックのことが重なりました。が、残念ながら、観終わって何も残っていないという感じがします。
だから、とか、それから、と問いたい感じ。でもそれは、自分たちの課題として取り組んでいくことかを思った次第です。
日本も世界も、パンデミックとなった新型コロナウイルスの感染拡大により、社会も大激動し、どのような安定した体制を取り戻すことができるのか、まだまだ先の見えない混迷状態が続いていますが、そのような折だからこそと、「神戸からの祈り」(阪神淡路大震災の鎮魂のイベント、1998年8月8日の実施、45分、サンテレビジョン)を多くの方々に見てもらいたいと思い、アップロードしてみました。Shinさんもぜひ時間のある時見てみてください。若い元気な頃の大重潤一郎さんも出て来ます。
「神戸からの祈り」:https://www.youtube.com/watch?v=QrVkm8DmK-I
次の比叡山の短い数分の映像もぜひ見てほしいものです。
東山修験道619-1(2分):葵:https://www.youtube.com/watch?v=8iD7NVEt2b0
東山修験道619-17(5分):比叡山の檜林の根返り倒木:https://www.youtube.com/watch?v=oWz-hpjUdVk
東山修験道619-23(5分):比叡山つつじヶ丘と「草木国土悉皆成仏」:https://www.youtube.com/watch?v=xQLstZbU96w
この連休中に、上記の「東山修験道」の動画①からラストのまで、「東山修験道619」として大変素朴な映像をアップロードしました。その中で特に⑰の映像を一番見てほしいと思っています。比叡山の檜林の根返り倒木の映像です。これが比叡山の山頂近くの今の姿です。ケーブル駅近くの雲母坂の現在の状態です。生態学的には、この比叡山の森林の荒廃した現実と、新型コロナウイルスの感染拡大とはつながっていると思います。宮沢賢治も南方熊楠もそう言うでしょう。
宗教学者の山折哲雄さんの後任としてわたしは「京都伝統文化の森推進協議会」の会長をこの数年務めて来、比叡山には620回登っていますが、この森の倒木を見ながら登拝するのは痛く辛いものがあります。京都伝統文化の森推進協議会の副会長の地球科学者の原田憲一さん(比較文明学会会長、前至誠館大学学長・元山形大学教授・元京都造形芸術大学教授)が次のように言っています。
<山形大に赴任してから数年後に、オークビレッジの稲本さんの講演をや、山形市内で聞く機会がありました。基本的にはうなづけることばかりでしたが、「山があれている」という言葉には実感が持てませんでした。山菜取りに入った山に「あれている」という様相はまったく目にすることがなかったからです。だから、テレビや新聞で山林関係者の「山があれている」という発言の真意をつかみかねていました。
しかし、1991年の北九州を襲った台風の翌年、対馬調査に行って何本もの杉の根返り倒木をまじかに見て、山形の自然林と西日本に多い杉の人工林の違いに気づきました。一度森林に人間の手を入れたら、最後まで手を入れ続けないといけないのです。飼い犬に餌をやるのをやめたら、犬は野生を取り戻して山に入って山犬になるのではなく、野良犬になって人間を襲うように、人工林を放置すれば自然林に遷移するわけではないのです。
今回の映像(「東山修験道619‐⑰」)を見て、比叡山の山麓であのようにひどい倒木が起きていることを知らなかったことにショックを受けると同時に、上のことを再確認しました。>
檜林の檜の根返り倒木の直接の原因は、2018年9月4日に京都に到来した台風21号によるものですが、その前提をなすものとその後の取り組みの問題の2点が大きな問題点です。前提をなすものとは、近代日本の植林です。多くはスギやヒノキの植林で、それが利益につながるからそうしたのですが、それによって根が浅く地盤が軟弱となり崩れやすくなったことは事実です。次の写真をご覧ください。
2018年9月4日に京都に到来した台風21号による被害
たとえば、この奈良県吉野郡天川村坪ノ内の天河大辨財天社の周辺の深層崩壊(2011年9月4日の起こった)の森林は、ほとんどすべてが植林した杉林でした。これは植林という人間の人工的な介入によって引き起こされている現実です。もちろん、多様な要素が関係しているので、植林だけの問題ではありませんが、しかし、部分的にせよ過剰な、また植生の偏りの多い植林により、いわゆる雑木林などのいわゆる自然の摂理にまかせる森から、生態系の循環のバランスを失ない歪な森になっているのが現実で、だから野生動物もそこでゆったりと生きられず、麓に下りてきたり、田畑を過度に荒らしたりすることにもなってきます。
その後の取り組みについては、台風21号の翌日、わたしは比叡山に登ろうとしましたが、途中のお地蔵様のところまで行って引き返さざるを得ませんでした。あまりにも根返り倒木が多く、それを片付けたりしながら登りましたが、つつじヶ丘まで行き着けなかったからです。次の日にようやっと、倒木をある程度片付けながら、つつじが丘まで上ることができました。この時のことは、以下をご参照ください。
http://waza-sophia.la.coocan.jp/monndou37.htm#2633
どういうえにしか、わたしは山折哲雄初代会長の後を継いで京都伝統文化の森推進協議会の二代会長を務めることになりましたが、京都市もさまざまな森林組合も、台風21号の被害から1年半が経って、ようやく雲母坂の山道だけは片付けが終わりました。しかし、京都市中の50万本ほどの根返り倒木についてはどのような対処もできません。膨大な片付け予算がかかるからです。森林整備に関して、国民各2枚のマスク配布の466億円くらいかあるいはそれ以上の国費や都道府県費がかかるからだと思います。アベノマスクを配布するくらいなら、466億円使ってまず医療体制・設備を整え、防護服や医療用マスクや医療機器を整備すべきでしたし、それ以前に防災省や防災機関を設けて、感染症対策も含めて体系的総合的に災害対策をし、その一環として全国の森林整備をしてほしかったものだと思いますよ。倒木を放置しておく危険性は、「山の荒れ」がどのような生態系の「荒れ」を生み出し、それが土砂崩れなどによる地域住民・国民への災害被害につながるかは、まだまだ予測できませんが、危険性はいっそう高まっていると思います。
そのようなことを含め、京都伝統文化の森推進協議会は、この12年におよぶ取り組みの集大成をして、以下の本で現状報告するとともに未来の森林の維持の仕方について訴えていますので、ぜひ読んでいただければと思います。
京都伝統文化の森推進協議会編『京都の森と文化』ナカニシヤ出版、2020年3月30日刊
内容紹介:古都京都を育み、世界からも注目される三山の森を守る! 三山の成り立ち、森林を襲う危機の実態、保全活動の成果と課題、その文化的価値、都市や人々とのつながり……、京都三山を巡る最新最上の自然科学と人文学の成果を収録。
著者について:京都伝統文化の森推進協議会
宗教学者・評論家の山折哲雄氏が設立発起人代表となり、平成19年に設立された。再生不能の危機に直面していた京都三山を、世界遺産の清水寺、青蓮院門跡、高台寺、祇園商店街振興組合、そして林野庁近畿中国森林管理局からの協力を得て、伝統に則った森づくりを行い、京都の森を蘇らせる事業を展開している。
*執筆順
鎌田東二 京都伝統文化の森推進協議会会長。上智大学グリーフケア研究所特任教授・京都大学名誉教授。著作:『言霊の思想』(青土社)、他。
勝占 保 林野庁近畿中国森林管理局京都大阪森林管理事務所長。
森本幸裕 公益財団法人 京都市都市緑化協会理事長。京都大学名誉教授。
原田憲一 元至誠館大学学長。著作:『地球について』(国際書院)、他。
中川要之助 応用自然史研究室「人と大地」室長。著作:『人と暮らしと大地の科学』(法政出版)、他。
高原 光 京都府立大学大学院生命環境科学研究科教授。著作:『シリーズ現代の生態学2 地球環境変動の生態学』〔共著〕(共立出版)、他。
黒田慶子 神戸大学大学院農学研究科教授。
高田研一 NPO法人森林再生支援センター常務理事。
安藤 信 公益財団法人 阪本奨学会理事。著作:『森林フィールドサイエンス』〔共著〕(朝倉書店)、他。
高桑 進 京都女子大学名誉教授。著作:『京都北山 京女の森』(ナカニシヤ出版)、他。
丘 眞奈美 合同会社京都ジャーナリズム歴史文化研究所代表。歴史作家。著作:『松尾大社〜神秘と伝承〜』(淡交社)、他。
梶川敏夫 京都女子大学文学部非常勤講師。元京都市考古資料館館長。著作:『よみがえる古代京都の風景—復元イラストから見る古代の京都—』、他。
吉岡 洋 京都大学こころの未来研究センター特定教授。
高橋義人 平安女学院大学国際観光学部特任教授。京都大学名誉教授。著作:『悪魔の神話学』(岩波書店)、他。 広井良典 京都大学こころの未来研究センター教授。著作:『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社)、他。
田中和博 京都先端科学大学バイオ環境学部学部長。著作:『古都の森を守り活かす—モデルフォレスト京都—』〔編著〕(京都大学学術出版会)、他。
○コラム:近藤高弘 陶芸・美術作家、大西宏志 京都造形芸術大学教授
○特別寄稿
大西真興 清水寺執事長。
山折哲雄 京都伝統文化の森推進協議会初代会長。宗教学者。
北村典生 祇園商店街振興組合理事長。いづ重主人。
単行本: 304ページ 出版社: ナカニシヤ出版 (2020/3/31)言語: 日本語
ISBN-10: 4779514584 ISBN-13: 978-4779514586 発売日: 2020/3/31
このようなダメージもあるものの、比叡山それ自体は今も神仏のいます聖山・霊山として健在です。この比叡山に、「草木国土悉皆成仏」の天台本覚思想が生まれました。それにに基づき、能(申楽)の大成者である世阿弥も禅竹も、あらゆる差別をなくすこの天台本覚思想の「一仏成道観見法界、草木国土悉皆成仏」の命題を繰り返し謡ったわけです。「いちぶつじょうどうかんけんほっかい、そうもくこくどしっかいじょうぶつ」と。
比叡山登拝のたびに、わたしはつつじヶ丘のお地蔵様や五輪の塔の前で、毎回、般若心経と各種真言を唱えています。各種真言は、主に、不動明王慈救咒、地蔵菩薩・薬師如来(延暦寺根本中堂の本尊)・観音菩薩・弁才天・六字大明咒(オンマニペメフーム)・グリーンターラの真言(オンターレツッターレツレスバーハー) です。毎朝のおつとめとして、比叡山に向かって、大祓詞、祓詞、造化三神・別天神など古事記冒頭の神々の神名、ゆかりの神社・国々の数十カ所の神名・地名・島々、特別の神々、恩師やゆかりの数十人の人名を唱えた後、各種真言を唱えます。そしてその後、石笛・横笛・法螺貝など30種類ほどの民族古楽器を奉奏しますが、つつじヶ丘では、比叡山に関係すると思われる真言(明王堂の不動明王、薬師如来、地蔵菩薩・弁才天など)を毎回唱え、その後六方拝をし、そして天地人にバク転3回し、「草木国土悉皆成仏」を思念します。前掲you tube「東山修験道619‐」では、そんな般若心経読経や各種真言の奉唱をしながらカメラを回しました。
次の映像は石の聖地のカメラマン(須田さん自称では「巨石ハンター」)の須田郡司さんとアイルランドやイギリスや沖縄(宮古島・久高島など)を巡った巡礼記録です。これも四半世紀、25年ほど前の映像です。
聖地巡礼映像
ケルト巡礼(須田郡司監督、1995年制作、10分):https://m.youtube.com/watch?v=2MDXZufxL1M
沖縄巡礼(須田郡司監督、1997年制作、9分):https://www.youtube.com/watch?v=0MS9KKWrk-M
「あさってを向いて生きる〜現代の修験者、鎌田東二」(10分映像、2011年6月制作)https://youtu.be/tXiMiaNp_T0
また、広島のふらんす座で2013年10月22日に「べくれる時代の祈り」と題するトーク&ライブをしたDVD記録が出てきたのでアップロードしました。なぜわたしが歌を歌うようになったか、その理由とかきっかけとか、「神」「弁才天讃歌」「ぼくの観世音菩薩」とか、「フンドシ族ロック」とか、「なんまいだー節」とか、神道ソングを全18曲をソロで弾き語りしています。ギターもピアノもハーモニカも歌もへたですが、笑いながら時間のある時に見てやってください。楽器も歌も下手でも歌えるんだということがよくわかると思います。
鎌田東二トーク&ライブ「べくれる時代の祈り」①ふらんす座in広島 2013年10月22日:https://youtu.be/KsMs3lYLn8I
鎌田東二ライブ「べくれる時代の祈り」②ふらんす座in広島 2013年10月22日:https://youtu.be/svr7Idd59hY
鎌田東二ライブ&トーク「べくれる時代の祈り」③ふらんす座in広島 2013年10月22日:https://youtu.be/5tySJxEdU04
それから、この際、自主制作をしたけれども、全く売れなかった2枚のCDのほとんどをyou tubeにアップロードしました。これらを聴いて少しでも元気になってくれるといいなと思ったのですが、効果ないかも?
神道ソング
①『この星の光に魅かれて』(2001年自主制作)
「弁才天讃歌」:https://youtu.be/5gJP3-dYYg8
「ぼくの観世音菩薩」:https://youtu.be/phId-F7eEU8
「銀河鉄道の夜」:https://youtu.be/lMNJHyMRJnk
「月山讃歌」:https://youtu.be/PVuVce9dmsg
「君の名を呼べば」:https://www.youtube.com/watch?v=eRso2UoC42k&list=TLPQMTEwNDIwMjAKoJhiqTnF2w&index=1
「虹鬼伝説」:https://www.youtube.com/watch?v=jBY1Dzb1JS4&list=TLPQMTEwNDIwMjAKoJhiqTnF2w&index=4
「神」:https://youtu.be/TjlMvrPaSXU
②『なんまいだー節』(2003年自主制作)
「人生」:https://youtu.be/ViQ4h0bBYc8
「般若心経遁走曲」:https://youtu.be/58lcxyj1BMs
「天から落ちてきた卵」:https://youtu.be/e7io5w3QemE
「天命」:https://youtu.be/fyRQELHhtGs
「時を超えて」:https://youtu.be/ww6wI3jUquE
「救いたまえ」:https://youtu.be/kD5ZNeURyZs
「鈴の音清し」:https://youtu.be/ZcQjF0nVkeY
「生きていくのだ 茜空」:https://youtu.be/LiE6vLC9_Ck
「水の記憶」:https://youtu.be/Nb8r2-LrZvo
「夢ゆめゆめ」:https://youtu.be/7-l9tg9oLh8
「風が運んでくる想い出」:https://youtu.be/bhD1BI2Qf-0
「なんまいだー節」:https://www.youtube.com/watch?v=jogKDNsrMYQ&list=TLPQMTEwNDIwMjAKoJhiqTnF2w&index=2
「星の船に乗って行こう」:https://youtu.be/ONGL2QrTD_A
「フンドシ族ロック」:https://www.youtube.com/watch?v=q7OlkKiHPG4
③石笛曲
「縄文・火」:https://youtu.be/nK09LQDT_dA
「天雷」:https://youtu.be/BATvklvnvxw
ともあれ、新型コロナウィルスの感染拡大が止まらない中、京都では葵祭も祇園祭も中止が決まりましたね。京都三大祭りが実施できないのは今日と文化伝統にとって大きな痛手です。特に3月以降、世界中の生活様式が激変し、これから先どのようになっていくのかという社会不安もいっそう拡大しています。新型コロナウィルスの感染拡大により、社会や世界の方がすっかり様変わりしてしまい、ソーシャルディスタンシングとか、新しい生活様式とかが推奨され、以前のような普通の生活形態には戻れないのかもしれないとも思います。地球史的感染拡大で、巨大化し過ぎた人間社会と文明構造の脆弱な一面や負の部分も顕在化し、これからの生き方や社会形態の再構築にも影響を及ぼすことでしょうね。
そんな中、「世阿弥研究会」や授業をZoomを使ったオンラインで行なうようになりました。2020年度の春学期の授業はすべてオンラインになりそうです。まったく初めての事態なので、戸惑うことも多いのですが、しかし、おもろいところもあります。先回のムーンサルトレターで書いたように、「逆境を道」として歩いて生きたいと思います。よろちく!
2020年5月7日 鎌田東二拝
-
前の記事
シンとトニーのムーンサルトレター 第180信 2020.04.08
-
次の記事
シンとトニーのムーンサルトレター 第182信 2020.06.06