シンとトニーのムーンサルトレター 第098信
- 2013.08.21
- ムーンサルトレター
第98信
鎌田東二ことTonyさんへ
毎日本当に暑い日が続きますね。Tonyさん、体調は大丈夫ですか? わたしは熱中症になりかけながら、全国各所を飛び回っています。
縁あって、わが社は日本における上座部仏教の寺院である「世界平和パゴダ」のサポートをさせていただいています。7月27日と28日の両日、門司港で「第1回パゴダFESTA」というイベントが開催されました。サンレー会長である父が宗教法人世界平和パゴダの代表役員に就任していることもあり、わが社のスタッフも祭りづくりに協力してくれました。結果として、新しい祭りは大成功し、予想を超える多くの方々が参加してくれました。新しい祭りを成功させたことは、サンレーが単なる冠婚葬祭企業を超えて、広い意味での「総合人間関係企業」に進化する上で非常に有意義でした。「祭り」や「儀礼」を創造することは「天下布礼」そのものであり、文化のイノベーションにつながります。
世界平和パゴダでの祭りのようす
門司港でも盛大に開催される
また8月3日、新刊の『死が怖くなくなる読書』(現代書林)がついに発売されました。「おそれ」も「かなしみ」も消えていくブックガイドをめざして書きました。「死を想う」「死者を見つめる」「悲しみを癒す」「死を語る」「生きる力を得る」という5つの章に分けて50冊を紹介しました。Tonyさんの『古事記ワンダーランド』、島薗進さんの『日本人の死生観を読む』、玄侑宗久さんの『アミターバ 無量光明』、井上ウィマラさんの『人生で大切な五つの仕事』なども紹介しています。日本では珍しい本格的な「死のブックガイド」に仕上がったのではないかと思います。まことに不遜ながら、Tonyさんにも送らせていただきました。御笑読のうえ、御批判下されば幸甚です。
新刊の『死が怖くなくなる読書』
儀式文化創造シンポジウムのようす
さて話は変わりますが、8月8日にシンポジウムに出演しました。佐久間会長が初代会長を務めた一般社団法人・全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)の40周年記念のイベントとして開催され、「新しい儀式文化の創造に向けて」というパネル・ディスカッションが行われました。この6月3日より、全互協は一般社団法人となり、その新定款には「冠婚葬祭儀式文化の保存・継承等に関する事項」を加えて事業に取り組んでいくこととなりました。このシンポジウムでは、人生儀礼(通過儀礼)の成立の過程などに触れながら、全互協と加盟互助会が人生儀礼にどう取り組むべきかを探りました。会場は、東京・大塚の「ホテルベルクラシック東京」です。200名以上収容できる広い会場が満員になりました。パネリストは、以下のメンバーでした。
●石井研士氏(國學院大學神道文化学部長)
●波平恵美子氏(お茶の水女子大学名誉教授)
●藤島安之氏(互助会保証社長)
●一条真也(作家・北陸大学客員教授)
わたしが全互協主催のイベントに出演するのは2010年8月の「孤独死講演会」、Tonyさんにも出演いただいた2012年1月の「無縁社会シンポジウム」に続いて、早くも3回目になります。浅学のわたしでも業界のお役に立てるのは嬉しい限りですが、今回は特に全互協の創立40周年記念シンポジウムへの出演ということで誠に光栄でした。
このシンポジウムには、テーマが3つありました。1つめは、「人生儀礼とは何か」ということ。2つめは、「人生儀礼を現代において再生するにはどのような方法があるのだろうか」ということ、そして3つめは、「互助会が今後できること、そして担うべきこと」です。
最初は、各パネリストの自己紹介と簡単なプレゼンテーションが行われました。わたしは、冒頭で次のように話しました。「礼」は儀式すなわち冠婚葬祭の中核をなす思想ですが、平たく言うと「人間尊重」であると思います。わが社のミッションでもあります。「礼」の精神を形にしたものが「儀式」です。孔子は「社会の中で人間がどう幸せに生きるか」ということを追求した人ですが、その答えとして儀式の重視がありました。人間は儀式を行うことによって不安定な「こころ」を安定させ、幸せになれるのではないでしょうか。
続いて、「儀式の果たす役割」について次のように話しました。
日本における儀式あるいは儀礼は、「年中行事」と「人生儀礼」に大別できますが、これらの儀式は「時間を生み出す」役割を持っていました。この役割は「時間を楽しむ」ということに通じると思います。「時間を愛でる」と言ってもいいでしょう。
日本には「四季」があり、「春夏秋冬」があります。わたしは、儀式というものも季節のようなものだと思います。「ステーション」という英語の語源は「シーズン」から来ているそうです。人生とは1本の鉄道線路のようなもので、山あり谷あり、そしてその間にはいくつもの駅がある。季節というのは流れる時間に人間がピリオドを打ったものであり、鉄道の線路を時間に例えれば、まさに駅はさまざまな季節ということになります。
そして、儀礼を意味する「セレモニー」も「シーズン」に通じるのではないでしょうか。七五三や成人式、長寿祝いといった人生儀礼とは人生の季節、人生の駅なのです。わたしたちは、季語のある俳句という文化のように、儀式によって人生という時間を愛でているのかもしれません。それはそのまま、人生を肯定することにつながります。
第二部では、「新しい儀式の創造」について話しました。まず最初に、儀式の創造には以下の3つのポイントがあると述べました。
1.よく知られた儀式のイノベーション(七五三、成人式、長寿祝いなど)
2.あまり知られていない儀式の紹介(十三祝い、清明祝い、元服式など)
3.まったく新しい儀式の創出(1万日祝い、3万日祝いなど)
そしてこの中では、1の「よく知られた儀式のイノベーション」が一番可能性を持っていると思います。七五三・成人式・長寿祝いに共通することは、基本的に「無事に生きられたことを神に感謝する儀式である」ということ。いずれも、神社や神殿での神事が欠かせません。最近、神事を伴わない衣装・写真・飲食のみの「七五三プラン」や、同級生との飲み会に過ぎない「成人式プラン」などがあるようですが、こんなものは儀式でも何でもない。単なるイベントです。
わたしは、「おめでとう」という言葉は心のサーブで、「ありがとう」という言葉は心のレシーブであると思っています。現在の成人式では「おめでとう」(サーブ)と言われるばかりですね。しかし今後は、これまでの成長を見守ってきたくれた神仏・先祖・両親・そして地域の方々へ「ありがとうございます」という感謝を伝える(レシーブ)場を提供していくことが必要だと考えます。ぜひ、サーブとレシーブ、「おめでとう」と「ありがとう」が活発に行き交うハートフル・ソサエティづくりのお手伝いをしたいです。まずは、「命を与えられ、これまで生かしていただいたことに感謝する」こと。儀式文化のイノベーションは、「感謝」の心を呼び起こすことでもあるのです。
それから具体的な儀式イノベーションの例としては、わが社が事業展開している沖縄における「長寿祝い」を紹介しました。沖縄の生年祝い(トゥシビー)です。わが社の結婚式場「マリエールオークパイン那覇」では、年間に大小合わせて約200件近くのトゥシビーを施行しています。規模が大きいもので200名を超えます。何よりも長生きをされた高齢者をみんなで祝うことは「人は老いるほど豊かになる」というメッセージを発信することです。この沖縄の生年祝いを日本中に広めたいと心から思います。
第三部「互助会ができること、担うべきこと」では、次のように述べました。
わたしは、互助会の役割とは「良い人間関係づくりのお手伝いをすること」、そして使命とは「冠婚葬祭サービスの提供によって、たくさんの見えない縁を可視化すること」に尽きると思います。そして、「縁っていいなあ。家族っていいなあ」と思っていただくには、わたしたち冠婚葬祭業者が本当に参列者に感動を与えられる素晴らしい結婚式やお葬儀を、1件1件お世話させていただくことが大切だと思います。
最後に、「冠婚葬祭互助会の使命」について以下のように話しました。
結婚式や葬儀をはじめとした人生儀礼を総合的に執り行う冠婚葬祭互助会の最大の使命とは何か。それは、日本の儀礼文化を保存・継承し、「日本的よりどころ」を守る、すなわち日本人の精神そのものを守ることだと確信します。その意味で、冠婚葬祭互助会の全国団体である全互協とは、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲などの日本の伝統文化を継承する諸団体と同じ役割、いや、儀式というさらに「文化の核」ともいえる重要なものを継承するという点において、それ以上の役割を担っていると思います。40周年ということで、全互協は『論語』でいう「不惑」を迎えました。これからは惑うことなく、日本人の「こころ」を守り、日本人を幸せにするために邁進したいものです。
わたし自身、学ぶところの多い非常に有意義な時間を過ごすことができました。正直言って、まったく時間が足らず、用意していた発言の10分の1ぐらいしか言えませんでした。完全に消化不良です。再度このような機会があれば、ぜひ参加したいです。
年末からは全互協の寄附講座として「儀礼文化」の公開講座が國學院大學でスタートします。わたしも話をさせていただく予定ですが、Tonyさんや父の母校である國學院で「儀礼」の話ができるなんて夢のようです。かつてTonyさんが言われたように、わたしは人間にとって「神話」と「儀礼」が不可欠であると心の底から思っています。今後も、日本人の「こころ」の未来のために、人間を幸せにする「かたち」としての儀式を追求していきたいです。よろしく御指導下さいませ。
最後に、日本における上座部仏教の寺院である「世界平和パゴダ」の建立55周年を記念して、来る9月21日(土)に「仏教文化交流シンポジウム〜ミャンマーと日本をつなぐ」が開催されることになりました。場所は、門司港レトロの「旧大連航路上屋]」です。
「世界平和パゴダ」シンダジウム
主催は、Tonyさんも理事である日緬仏教文化交流協会です。当日は、世界平和パゴダ住職であるウィマラ長老の基調講演が行われます。その後、「世界平和パゴダの可能性」と題されたシンポジウムが行われます。参加メンバーは以下の通りです。
●井上ウィマラ氏(高野山大学文学部教授)
●天野和公氏(「みんなの寺」坊主・作家)
●八坂和子氏(ボランティアグループ一期会会長)
●一条真也(作家・株式会社[サンレー]社長)
(コーディネーター)内海準二氏(出版プロデューサー)
1人でも多くの方の参加をお待ちしております。お問い合わせは、日緬仏教文化交流協会(TEL:093−551−9950)までどうぞ。
それでは、まだまだ猛暑が続きますが、Tonyさんもくれぐれも御自愛下さい。それでは、お元気で。オルボワール!
2013年8月21日 一条真也拝
一条真也ことShinさんへ
残暑、お見舞い申し上げます。少し涼しい感じが出るかと思い、昨夜、わが砦から撮った満月の写真をお送りします。
さてさてShinさん、本当に暑い毎日ですね。京都では、37度を超える日が日常になっています。盆地ですので、暑さが溜るのです。わが砦は、比叡山の山裾ですから少しは涼しいのですが、日中はたまらなく暑いですね。
満月の写真
でも、わたしは、結構、暑いのが好きです。汗をかくのも好きです。なんか、生きてる、って感じがして。なんか、ちからが湧いてくるのです。暑いと。体はぐったりしても、力が湧いてくるというのは矛盾のようでもありますが、事実です。
さて、新刊『死が怖くなくなる読書』(現代書林)刊行、おめでとうございます。Shinさん、まもなく、100冊刊行になるんじゃないですか? それとも、もうすでに超えていますか? 次々と精力的に本を出し、社長業もしっかりと務め、全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)の活動も力を入れている。本当に八面六臂の活躍です。頼もしい限りです。益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
新館の中で、『古事記ワンダーランド』(角川選書)を取り上げていただき、まことにありがとうございます。Shinさんの読書量は半端でなく、それをまた読書ガイドとしてアウトプットする、そのインプットとアウトプットの両方ともに超人的です。日本の読書会を大いに刺激し、今を生き、未来を生きる指針と灯をかざしてください。
さて、わたしの方は、相変わらず、慌ただしい毎日です。観たいと思っている宮崎駿監督の新作『風立ちぬ』も未だ見ることができません。特に、7月末から8月にかけては前期授業が終わって採点なども重なり、普段の仕事や業務にさらに負荷が加わります。とはいえ、62歳になる現在まで、毎年、夏休みという時間を少しでも取ることができるのは、有難いことだと思っています。もちろん、家にいても、毎日仕事をしているので、本当の意味での休日などというものは、無きに等しいですが、しかしそれでも、教員という仕事をしていて有難いのは少しまとまった時間を取れることです。この時間がなかったら、自分のやりたいこと、やらねばならないことが半分もできずにいたことでしょう。
その意味でも、社長業を務めながら、おそらく人の10倍以上の仕事をしているShinさんの活動と頑張りには頭が下がります。わたしもハードですが、Shinさんも相当ハードです。くれぐれも御身お大事にしてください。「天命を知る」50歳は、体の方も「転命」を知る変化期ですので。
この前、長野県の蓼科で、地球システム・倫理学会のセミナーがあり、その中で、東北被災地沿岸部に建設されつつあるコンクリートの防潮堤に対する反対と見直しの緊急声明を以下のようにまとめ、7月30日付で発表しました。
巨大コンクリート防潮堤建設の見直しを求める(http://www.jasgse.com/)2013年7月30日
2011年3月11日に発生した東日本大震災の後、その復旧・復興過程で、被災地海岸線に最大十六メートルの高さ(最大底辺八〇メートル)の防潮堤を造ることが計画され、すでに一部着工されています。
この計画と実施が、地元住民の考えや生活形態、地域のあり方、将来構想などを充分に組み込み検討することなく進められていることに多くの関係者が疑問を抱いています。
とりわけ、一律にコンクリートで防潮堤を築くことは、海と共に暮らしてきた沿岸部地域住民の親水・親海感を分断し、森・里・海のいのちの循環を断ち切るものではないかという強い懸念が寄せられています。
地球システム・倫理学会では、このような、一律コンクリートによる防潮堤の築造に対して反対の意を表するとともに、これまでの親水・親海的な暮らしと民俗の知恵の再検証に基づく地域住民主体の防潮・防災構想の再構築を国・県およびすべての関係者に求めます。
「緊急声明」を出すに至った経緯 2013年8月3日 地球システム・倫理学会
(1)2013年7月27日(土)午後4時から午後6時まで、麗澤大学東京研究センターにて開催された研究例会で「緑の防潮堤をめぐって」というパネルディスカッションを行った。司会は東北大学大学院教授の安田喜憲氏、パネリストは宮城県仙台市輪王寺住職の日置道隆氏、京都大学名誉教授の田中克氏、国土交通省水管理・国土保全局海洋室長の五道仁実氏であった。
(2)その際、宮城県の仙台湾周辺から気仙沼にかけての海岸部に構築されつつある、コンクリート製の巨大防潮堤については計画を見直すべきであり、宮脇昭先生が主張されている「緑の防潮堤」の建設について検討すべきであるとの意見が多く寄せられた。
(3)この研究例会を受け、2013年7月29日・30日に服部英二会長はじめとする有志の理事らが、蓼科高原にて合宿(蓼科セミナー)を行った。その際、学会として「巨大コンクリート防潮堤建設見直しを求める緊急声明」を出すべきであるという提案がなされ、声明の文案が作成された。声明の文案を作成したのは、服部英二(地球システム・倫理学会会長、麗澤大学比較文明文化研究センター客員教授)、板垣雄三(東京大学名誉教授、地球システム・倫理学会協賛会員)、佐々木瑞枝(武蔵野大学名誉教授、地球システム・倫理学会理事)、鬼頭秀一(東京大学大学院教授、地球システム・倫理学会常任理事)、鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター教授、地球システム・倫理学会常任理事)、青木三郎(筑波大学大学院教授、地球システム・倫理学会理事)、犬飼孝夫(麗澤大学教授、地球システム・倫理学会理事[事務局次長])の7名である。
(4)「巨大コンクリート防潮堤建設見直しを求める緊急声明」(案)については、7月27日(土) のパネルディスカッションの司会者およびパネリスト、地球システム・倫理学会の理事・評議員に提示し、理事・評議員の賛同を得た後に学会からの緊急声明として発信することになった。
「生態智」を21世紀のライフスタイルの基盤にと主張している「東山修験道」者のわたしとしては、最大高16メートル、最大底辺80メートルものコンクリートの防潮堤を造るなど、もちろん、大大大反対です。日本列島を要塞列島にするのか、監獄にしてしまうのか、と怒り心頭に達します。
地球システム・倫理学会で、問題提起をした田中克氏は、京都大学名誉教授の魚類学者ですが、「自然と自然、自然と人、人と人のつながりを再生する新しい哲学『森里海連環学』の提唱者です。勤務先のこころの未来研究センターのある稲盛財団記念館の掲示板に時々、「森里海連環学」のシンポジウム開催のポスターなど貼ってあって、興味を持っていました。わたしの観点から言う「生態智」とそれは密接に連携してきますから。
田中克氏は、1943年、滋賀県大津市に生まれ、京都大学大学院農学研究科を修了し、水産庁西海区水産研究所に在職したあと、2003年4月に京都大学フィールド科学教育研究センターが創設されるととともにセンター長就任しました。田中氏は、50年にわたり、日本海のヒラメやマダイや有明海のスズキ仔稚魚の初期生活史研究に取り組んできて、森林生態系と沿岸浅海域との関連性に着目し、自然のつながりと人の心の再生を目指す「森里海連環学」を提唱しました。著書には、『森里海連環学への道』(2008年、旬報社)、『魚類の初期発育』(1991年、恒星社厚生閣)、共著に『魚類学』(1998年、恒星社厚生閣)、『稚魚学—多様な生理生態を探る』(2008年、生物研究社)、『干潟の海に生きる魚たち』(2009年、東海大学出版会)、『稚魚 生残と変態の生理生態学』(2009年、京都大学学術出版会)などがあります。
そんなことで、田中克氏の本や記事を読んでいくうちに、「これが言いたい:巨大防潮堤は禍根を残す」という田中氏の署名記事を見つけました。毎日新聞2012年8月30日朝刊の記事です。それは、次のような内容でした。
◇三陸沿岸に干潟を再生し、漁業復活を
東日本大震災で被災した三陸沿岸域の復興はひとえに基幹産業であった沿岸漁業、養殖漁業の復活にかかっている。
今回の地震のあと、新たな干潟が沿岸部に生まれるという注目すべき変化が起きている。しかし、天与の恵みの前に、巨大防潮堤の建設計画が立ちふさがろうとしている。
三陸沿岸ではリアスの海に生きる漁師の感性と知恵から「豊かな海は豊かな森に支えられる」との考えが生まれ、漁民による植樹活動と子供たちの環境教育を柱とする“森は海の恋人”運動が根付いた。今では小学5年生が学ぶ社会科の全ての教科書に紹介されるほど全国に広まっている。
この運動のリーダーである畠山重篤さんがカキ養殖業を営む気仙沼舞根(もうね)湾にも巨大津波はおし寄せ、再起不能に近い損害を被った。しかし、親子3世代にわたり養殖業を営んできた同氏は「海に恨みはない。海と漁業は必ず復活する」との強い信念のもとに三陸のカキ養殖業復活の先頭に立った。これらの活動が評価され、同氏は国連により世界のフォレストヒーローに選ばれた。世界は「森は海の恋人」を日本の知恵として評価しているのである。
そして昨年5月、森と海の復活を願う研究者が全国から舞根湾に集まり、地震と津波が沿岸の生態系に及ぼした影響と回復の過程を解明するための調査が行われた。その際、震災の激動を経てアサリ稚貝が湾奥部に大量に発生していることが明らかになったのである。
この湾奥部は一度埋め立てられたが、地震による地盤沈下に伴い海水が浸入したため、干潟や湿地に姿を変えつつある。森と海をつなぐ境界に位置する干潟域や湿地は、多くの魚類や甲殻類などの子供が育つかけがえのない場所である。しかし、沿岸部のこれらの生育場は埋め立てられ環境は著しく劣化し、我が国沿岸漁業は衰退した。はかりしれない惨禍をもたらす一方で、自然(地震)は干潟を再生したのである。
この発見を契機に、干潟や湿地の再生を見守り、子供たちの環境教育や自然再生の研究フィールドとして有効に活用しながら生活を再建することで舞根地区住民の気持ちはまとまった。ところが将来の津波の襲来に備えるとして、国の中央防災会議は三陸沿岸一帯に巨大な防潮堤を張り巡らせる方針を決めた。
宮城県では沿岸を22ブロックに区切り、高さ2・6〜11・8メートルの防潮堤を造ることを決め、先月から説明会が開かれている。気仙沼市の11の地区は地域の命運を左右しかねないと合同で「防潮堤を勉強する会」を発足、住民自ら意思決定できる道を模索している。
舞根地区のように住民の意見をまとめ気仙沼市に「防潮堤には頼らず、海とともに生きる」要望書を提出した例も見られる。しかし、まとめ役を失い暮らしに追われ、意思表示のゆとりすらない被災地区が大半で、このままでは行政主導の防潮堤計画が既成事実となる恐れが強い。三陸の豊穣(ほうじょう)の海の源であるリアス海岸奥部に広域にわたって巨大な防潮堤が設置される可能性が高まっている。
三陸沿岸の復興は、多様な地域ごとの住民の要望を基本に、豊穣の海を持続させ、基幹産業である漁業と養殖業の振興を柱に進められるべきだ。
「森は海の恋人」に象徴される自然の摂理のもとに生き、世界の注目に値する三陸の自然文化遺産的な価値を高める方向こそ、次世代に誇れる正しい選択だと信じている。
まったく同感です。この中の、「震災の激動を経てアサリ稚貝が湾奥部に大量に発生」というところを読んで、まさに「生態智」というのか、「生態力」というのか、大自然が生み出す「レジリエンス」というか、回復力の凄さに驚嘆すると同時に、「さもありなん。それでこそ『自然』ぜよ!」と快哉の声を挙げたのでした。「森は海の恋人」というのは、生態智・生態力のマントラです。
わたしは明日、8月23日からNPO法人東京自由大学の夏合宿で、飛騨高山の福来友吉記念館、円空仏と両面宿灘のある名刹千光寺、位山、東尋坊、永平寺、国学者・橘曙覧(たちばなあけみ)記念館などを巡ります。千光寺では2日間瞑想体験もします。
帰洛後、ひと息ついてまたすぐ、8月29日から9月4日まで東北被災地の宮城県名取市から青森県八戸市までの400〜500キロを、石の聖地の研究家でありカメラマン(フォト霊師)の須田郡司氏と第6回目の追跡調査に参ります。その際、30日には、宮城県石巻市雄勝町の石峰山を登拝し、セレモニーをします。そしてそれを踏まえて、以下のようなセレモニーやシンポジウムを行ないます。義兄弟の近藤高弘氏も一緒です。
8月30日 AM ストーンサークルセレモニー(雄勝・石峰神社)
8月31日 AM 11:00〜キッチンカー・プチフレンチ昼食会(石巻・開成第11団地北集会所)
PM 2:00〜5:00頃 シンポジウム(石巻・開成第11団地北集会所)
Symposium in Ishinomaki-revive
帰洛して、ひと息入れて、また9月6日から8日まで、母校の國學院大學で開催される「日本宗教学会」に参加します。わたしの研究発表はありませんが、共同研究員のアルタンジョラーさんの発表はいろいろと関心のある研究発表を聴き、質問するつもりです。
さてさて、最後に、もう一つ、納涼写真を。わが砦は比叡山の山裾にありますが、そこから見えた、8月16日の「五山の送り火」の「舟形・左大文字・妙法」の法のさんずいの3点とその夜の半月の写真をお送りします。
9月になると、ポケゼミ「沖縄・久高島研究」のゼミ合宿を久高島で行ない、帰ってすぐ、<科研:「身心変容技法の比較宗教学」国際シンポジウム>(2013年9月24日〜26日)を開催します。大忙しですわ〜。
第14回身心変容技法研究会
(研究者対象・申込制・無料、定員30名)
日時:2013年9月24日(火)13時〜17時30分 (受付開始:12時30分〜)
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
講義:張明亮老師「中国峨眉丹道医薬養生学派派の身心変容技法研究について」13時〜15時
休憩:15時〜15時20分
峨眉派気功実技指導15時20分〜16時20分
総合討論 16時20分〜17時30分
通訳:山元啓子
司会:鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター教授・宗教哲学・民俗学)
国際シンポジウム
(一般公開・申込制・無料、定員150名)
日時:9月25日(水)13時〜17時30分(受付開始:12時30分〜)
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
企画趣旨説明:鎌田東二(科研「身心変容技法の比較宗教学」研究代表者)13時〜15時10分
基調講演:張明亮老師(峨眉丹道医薬養生学派第十四代伝人・中医師・北京黄亭中医薬研究院院長・山西大学体育学院客員教授・中国国家体育総局健身気功協会常任委員)13時10分〜15時
テーマ「峨眉丹道医薬養生学派の気功と武道における身心変容技法研究」
休憩:15時〜15時20分
指定討論者:
濱野清志(京都文教大学教授・臨床心理学・気功家)15時20分〜15時50分
倉島哲(関西学院大学准教授:身体論・中国拳法)15時50分〜16時10分
アルタンジョラー(京都大学こころの未来研究センターワザ学共同研究員・文化人類学、モンゴルシャーマニズム研究)16時10分〜16時30分
総合討論16時30分〜17時30分
通訳:山元啓子
司会:鎌田東二
峨眉丹道医薬養生学派気功実修
(一般公開:申込制・無料、定員40名、動きやすい格好でご参加ください)
日時:2013年9月26日(木)13時〜17時30分(受付開始:12時30分〜)
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
実技指導:張明亮老師
通訳:山元啓子
司会:奥井遼(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定研究員・臨床教育学)・鎌田東二
張明亮老師プロフィール(中国峨眉丹道医薬養生学派第十四代伝人)
1970年山西省生まれ。国際的に著名な健身気功専門家、中医学、養生学専門家、峨眉丹医養生学十四代伝人、中医新九針療法学術継承人。幼少の頃、峨眉気功の四人の老師に見出され、気功・鍼灸・推拿・医薬・養生などの英才教育を施される。峨眉丹道医薬養生学派第十四代伝人として全伝を受け継ぐ。中国国家体育総局で制定された四大功法の編纂に主導的役割を果たす。現在の中国気功界で最も注目されているホープ。2008年北京オリンピック聖火ランナー、スイス丹道中医学院院長、フランス丹道中医学院院長。著書『五臓の音符——中医五臓導引術』『健身気功への道』など多数。中国国家体育総局より「創編健身気功貢献賞」「健身気功普及優秀者賞」受賞、武漢市人民政府より「科学技術進歩賞」受賞、また「common welfare O’Brien Award」賞受賞。
申込方法:E-mailでお申込ください。
件名に、参加ご希望の日付(9/24 9/25 9/26)をかならず明記の上、必要事項をご記入の上、ご送付ください。
必要事項 ①氏名(ふりがな)②ご所属 ③返信用メールアドレス
申込受付完了後、こちらよりご連絡差し上げます。
連絡先/申込先:京都大学こころの未来研究センター・リエゾンオフィス(平日9時〜17時)
E-mail:kokoro-event-2@educ.kyoto-u.ac.jp
主催:京都大学こころの未来研究センター:科研(基盤研究A)「身心変容技法の比較宗教学」
科研:「身心変容技法の比較宗教学」国際シンポジウム
ともあれ、次の満月までごきげんよう。
2013年8月22日 鎌田東二拝
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