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シンとトニーのムーンサルトレター第233信(Shin&Tony)

鎌田東二ことTonyさんへ

Tonyさん、前回の第232信もTonyさんからの返信がなかなか届かず、かなり心配いたしました。ようやく届いたレターの冒頭には、「Shinさん、返信が20日も遅れ、ごめんなさい。この3週間ほど、体調を崩し、2週間は、1日24時間の内、20時間は眠っていました。たぶん、抗がん剤Ⅱ期目11クールを終えて、副反応が蓄積し、頭髪も抜け、免疫力も落ちていたところに、ストレスがたまり、一挙にからだに反応がでたのか、とおもいます」と書かれていました。とても心配です。一度、お見舞いというか、京都に会いに行きたいです。体調が優れないにもかかわらず、この夏は『死に臨む態度』と『日本人の死生観』の2冊の本の原稿を書かれるとのこと。「本当に凄い人だ!」と感動をおぼえる一方で、やはりお身体が心配です。どうか、無理をされないで下さい。お願いします。

 

今回もわたしからの投稿を遅らせようかとも思いましたが、やはり満月の夜にレターをお送りすることにいたします。7月の満月は「バックムーン」と呼ばれています。この呼び名はアメリカが発祥とされていて、英語で書くと「Buck Moon」となります。「Buck」はオスの鹿を意味しており、ちょうどオスの鹿の象徴でもある角が生え替わる時期であることから、7月の満月をバックムーンと呼ぶようになりました。


チラシの表

チラシの裏

 

今回はまず、7月14日に開催されたトークショーの話から。その日の北九州は大雨警報が出るほどの悪天候でしたが、そんな中、ドキュメンタリー映画「グリーフケアの時代に」の上映会が小倉でありました。会場は北九州市立男女共同参画センター「ムーブ」で、この日の14時と17時開始で2回上映されました。この作品は秋篠宮妃紀子さまや岸田文雄総理大臣も鑑賞するなど、まさに「グリーフケアの時代」であることを実感しているところです。

 

「グリーフ」とは、深い悲しみ、悲嘆を意味する言葉で、大切な人を失ったときに起こる身体上、精神上の変化や苦悩を指します。作品は、そうした家族やパートナーを失い、旅立ちを見送らなくてはならない人が、心の痛みを手放し、再生へと向かう一助となるような心温まる内容です。この映画では、さまざまなグリーフケアに関わる人々を紹介しています。語りは女優の音無美紀子さんです。僭越ながらわたしも出演し、グリーフを抱える方同士が結ぶ「悲縁」について紹介しています。


北九州市立男女共同参画センター「ムーブ」の前で

 

14日の北九州は警報が出るほどの大雨で、当初は広い会場が満員になる予定だったのですが、あまりの豪雨で客足が鈍りました。まことに残念でした。15時30分からトークショーが開催されました。トークショーは、わたしも登壇しました。トークショーのコーディネーターは、中村順子氏(高齢社会をよくする北九州女性の会)で、登壇者はわたしの他に、松村邦彦氏(当事者)、眞鍋祐美子氏(看取りを支える医師 あきたけ医院院長)、川上理恵氏(新田医院看護師)といった顔ぶれでした。登壇者のトップバッターとして、わたしが自己紹介と「グリーフケア」への想いや関わり、現在行っている取組みの中で皆様にお伝えしたいことなどを10分間ほどお話ししました。


トークショーのようす

 

わたしは、まず「サンレーの佐久間です。弊社は松柏園ホテルが起点となっていますが、冠婚葬祭互助会としては、昭和41年(1966)11月18日に北九州で創業しました。再来年で創業60年になります。現在、紫雲閣・三礼庵として、北九州市内では24会館、福岡県内では48会館、他県の施設を合わせると100会館近いセレモニーホールを展開しております」と自己紹介しました。


グリーフケアとは

 

この映画にも出演するご縁をいただきましたが、弊社とグリーフケアとの関わりは大変深いものと思っています。なぜなら弊社の会館では毎日ご葬儀を行っておりますし、そこには愛する人を亡くしたご遺族様がおられ、グリーフを感じケアを必要としているからです。葬儀という儀式には、不安定な心を安定させるという力があります。愛する人を亡くした人はパニックになったり、怒りを感じたり、罪悪感を持ったりととても不安定な心の状態になります。この状態はそれぞれの人により異なりますが、この不安定な心を安定させるのが葬儀という儀式です。


悲嘆とは

 

不安定な心に儀式というしっかりした「かたち」のあるものが押し当てられると、不安が癒されていくのです。親しい人間が死去する。その人が消えていくことにより、愛する人を失った遺族の心は不安定に揺れ動きます。残された人は、大きな不安を抱えて数日間を過ごさなければなりません。この不安や執着は、残された人の精神を壊しかねない、非常に危険な力を持っています。常に不安定に「ころころ」と動くことから「こころ」という語が生まれたという説がありますが、「こころ」が動揺していて矛盾を抱えているとき、この「こころ」に儀式のようなきちんとまとまった「かたち」を与えないと、人間の心にはいつまでたっても不安や執着が残るのです。


葬儀の重要性について話しました

 

愛する人を亡くした人が葬儀をしなかったらどうなるか。そのまま何食わぬ顔で次の日から生活しようとしても、喪失で歪んでしまった時間と空間を再創造することができず、「こころ」が悲鳴を上げてしまうのではないでしょうか。多くの人は、愛する人を亡くした悲しみのあまり、自分の「こころ」のうちに引きこもろうとします。誰にも会いたくない。何もしたくないし、一言もしゃべりたくない。ただ、ひたすら泣いていたいのです。しかし、そのまま数日が経過すれば、一体どうなるか。遺された人は、本当に人前に出られなくなってしまいます。もう誰とも会えなくなってしまうのではないでしょうか。


「かたち」が「こころ」を安定させる

 

葬儀は、いかに悲しみのどん底にあろうとも、その人を人前に連れ出します。引きこもろうとする強い力を、さらに強い力で引っ張り出すのです。葬儀の席では、参列者に挨拶をしたり、お礼の言葉を述べなければなりません。それが遺された人を「この世」に引き戻す大きな力となっているのです。そして、不安定な“心の状態”は“身体の健康”へ大きな影響を及ぼします。抑うつ、食欲不振、睡眠障害などもそうですが、自死に至る可能性もあるものです。不安定な心を安定させることはとても大切なことなのです。


「月あかりの会」について

 

サンレーでは、平成22年(2010年)にご遺族のための会を立ち上げ、そこでは遺族会である「月あかりの会」や、同じ悲嘆をもつ自助グループ「うさぎの会」など様々な角度から、持続的な心の安定(幸福)をサポートさせていただいています。これまで悲嘆や不安の受け皿の役割は、これまで地域の寺院や地域での縁ある方たちが担ってきましたが宗教離れが進み、人口も減少していく中で、その縁は薄れていっています。 「月あかりの会」や「うさぎの会」をサポートして気づいたのは、地縁でも血縁でもない、新しい「縁」が生まれていることです。会のメンバーは、高齢の方が多いので、亡くなられる方もいらっしゃいますが、その際、他のメンバーはその方の葬儀に参列されることが多いです。楽しいだけの趣味の会ではなく、悲しみを共有し、語り合ってきた方たちの絆はそれだけ強いのです。


「愛する人を亡くした人」が失うもの

 

「月あかりの会」は、この悲嘆による人的ネットワークとしての新しい縁である「悲縁」という新たな縁を生み出します。悲縁によって相手を支えることで、自分も相手から支えられるグリーフケア・サポートとしての「月あかりの会」をサポートしています。冠婚葬祭互助会でもグリーフケアのサポートに向けての取組みとして、グリーフケア資格認定制度を創設し、2020年11月 小倉で「グリーフケア資格研修発会式」が開催されました。現在ではグリーフケアの専門家としてのグリーフケア士は1,000名を超え、またその上位資格である上級グリーフケア士も32名おりまして、グリーフケアを広め、実践していくために活躍しております。


「グリーフケアの時代」がやってきた!

 

また、コーディネーターから「今日の感想やこれから進めていこうとされていることなどについてお話しください」とのリクエストがあり、以下のような話をしました。わたしは平成19年(2007年)にグリーフケアの書である『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)を書いたのですが、ほとんどの人が「グリーフケア」という言葉を知らなかったことが思い出されます。この本を原案とした映画を「君の忘れ方」も来年1月に全国公開されます。本日は多くの方々がグリーフケアに関心を持ち、この「グリーフケアの時代に」を観ていただいたことは、これからが「グリーフケアの時代」となることを強く感じています。


なぜ、「死」を「不幸」と呼ぶのか?

 

グリーフケアに取り組んで20年以上、わたしが、どうしても気になったことがありました。それは、日本では、人が亡くなったときに「不幸があった」と人々が言うことでした。わたしたちは、みな、必ず死にます。死なない人間はいません。いわば、わたしたちは「死」を未来として生きているわけです。その未来が「不幸」であるということは、必ず敗北が待っている負け戦に出ていくようなものです。わたしたちの人生とは、最初から負け戦なのか。どんな素晴らしい生き方をしても、どんなに幸福感を感じながら生きても、最後には不幸になるのか。亡くなった人は「負け組み」で、生き残った人たちは「勝ち組」なのか。わたしは、そんな馬鹿な話はないと思います。


「死」は「不幸」ではない!

 

わたしは、「死」を「不幸」とは絶対に呼びたくありません。なぜなら、そう呼んだ瞬間、わたしは将来かならず不幸になるからです。死は決して不幸な出来事ではありません。愛する人が亡くなったことにも意味があり、あなたが残されたことにも意味があるのだと確信しています。そして、人が亡くなっても「不幸があった」と言わなくなるような葬儀の実現をめざしています。そして、死のことは「人生の卒業」、葬儀のことは「人生の卒業式」と呼んでいます。さらには、「終活」の「終」という言葉に違和感をおぼえます。なぜなら、わたしは「命には続きがある」と考えているからです。ですから、「終活」ではなく、人生を修める活動としての「修活」を提唱しています。


北九州から「老いの豊かさ」を発信しよう!

 

わたしたちの住む北九州市は、日本の政令指定都市で最も高齢化が進んでいます。日本は世界で最も高齢化が進んでいますから、北九州市は世界一の高齢化国といっていい。ならば、多くの高齢者が死を「不幸」だととらえていては世界一不幸な街になってしまいます。ぜひ、避けられない死を前向きにとらえて「幸福」な老後というものをデザインしなければなりません。これまで炭鉱や製鉄で日本中を豊かにしてきた北九州ですが、今度は「老いの豊かさ」を全国、いや全世界に発信すべきだと思います。そして、この街において、「心ゆたかな支え合う社会」としてのハートフル・ソサエティを実現すべきです。


「縁」の再構築のお手伝いをしたい!

 

寺院との関係が希薄になり、地縁や血縁が薄まってきているいま、紫雲閣を展開するわが社はセレモニーホールのコミュニティホール化を図っています。このコミュニティホールは葬儀だけでなく、地域の方が集い、さまざまなことに使っていただける、地域に無くてはならない施設です。そして、そのコミュニティを支えるものは「悲縁」となるのです。これからのグリーフケアの時代を担っていくために「縁」の再構築のお手伝いを行いたいと思います。最後は盛大な拍手を浴びて、わたしたちは降壇しました。最後に関係各位および、連休でお忙しい中かつ大雨の中を会場に駆けつけて下さった皆様に感謝いたします。

 

それから、「月」をテーマとした映画の話をしたいと思います。19日は東京に出張していました。午後から互助会保証株式会社の監査役監査および監査役会に参加。夕方からは出版関係の打ち合わせをした後、この日から公開されたアメリカ映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」をTOHOシネマズ日比谷で観ました。今年観た100本目の映画です。ずっと楽しみにしていた作品で、とても面白かったです。ちょっとグラマーなスカーレット・ヨハンソンがベリー・キュートでした!

 

「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」は、人類初の月面着陸に成功した、アポロ11号の舞台裏を描くドラマです。人類初の月面着陸に挑むアポロ計画が始動して8年が経過した、1969年のアメリカ。ソ連との宇宙開発競争で後れを取る中、ニクソン大統領に仕える政府関係者のモー(ウディ・ハレルソン)を通して、PRマーケティングのプロであるケリー(スカーレット・ヨハンソン)がNASAに雇われます。手段を選ばないケリーのPR作戦が、NASAの発射責任者のコール(チャニング・テイタム)の反発を押し切りつつ成功を収める中、彼女はモーからあるミッションを指示されるのでした。

 

ケリーと敵対するNASAの発射責任者コールは、過去の重大な事故に悩まされていました。それは、1967年、アポロ1号の予行演習中に宇宙飛行士3名の命を奪った火災です。3名は与圧宇宙服を着て、プラグ切り離しテストのために指令船内にいました。そして、2度目のチェックリスト確認中に出火。船内は純酸素で満たされていたため炎は大きくなり、気圧の上昇によりカプセルの壁が破壊されました。煙が地上作業員たちに押し寄せ、破片で怪我をした人もいました。26秒の間、恐怖に包まれた地上チームには中からの叫び声が聞こえ、そしてカメラの画面は火柱でいっぱいになったそうです。

 

NASAの主任歴史学者であるブライアン・オドムは、「アポロ1号、あの日の火災、そして火災の余波で、NASAは立ち止まっていました。私たちは何をしているのか、無理をしすぎているのではないか、スケジュールは進んでいるのか。宇宙船を設計するという難題に応えるために、品質管理の一部はある種、遅れをとっていました」と、この事故によってアポロ計画は頓挫の危機を迎えたと指摘。また、「今日を振り返る際、アポロ1号の火災は大切なリマインダーです。悲劇の教訓を失ってはなりません。だからこそ、NASAはこれらすべてのミッションの追悼日に祈りを捧げます。悲劇から学び、心に留めておくためです」とも語っています。悲劇が決して忘れてはならない教訓となり、亡き飛行士たちへの思いがその後のNASAを奮い立たせました。アポロ11号の有人ミッションへの成功は、大いなるグリーフケアの物語でもありました。

 

それにしても、アポロ11号の月面着陸は人類史上の偉業でした。1969年7月16日、アメリカの宇宙船アポロ11号がフロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられました。そして、20日に月面着陸を果たしたのです。それは人類が初めて月に降り立ち、月の石を地球に持ち帰ることに成功した歴史に残る大プロジェクトの始まりでした。宇宙船に乗り込んだのは、ニール・アームストロング船長と、月着陸船の操縦士バズ・オルドリン、司令船操縦士のマイケル・コリンズの3人です。アームストロング船長は後に、「人類で初めて月面に降り立った人物」として歴史に名前を刻みます。アポロ11号が月面に着陸したのは、わたしが6歳のときでした。まだ幼かったわたしですが、なんとなく大変な出来事が起こったのだということは理解できました。それ以来、わたしの人生において月は大きな存在となりました。

 

日米両政府は、米国が主導する有人月探査「アルテミス計画」で、日本人宇宙飛行士2人を月面着陸させることで合意する方針を固めました。日本人の月面着陸は初めてで、実現時期は2028年以降が想定されています。そんな折、1969年のアポロ11号の偉業が改めて思い出されますね。YouTubeで「アポロ11号」「月面着陸」などと検索してみると、「アポロは本当に月に行ったのか?」「人類は本当は月に行っていない!」といったトンデモ動画がたくさんアップされています。月の石をはじめとする数々の証拠から、アポロ11号が月面着陸したのは紛れもない事実です。当時のアポロ計画には約40万人もの人々が関わっており、彼ら全員を情報隠蔽の共犯にすることは不可能です。

 

月面着陸陰謀論は、1976年にビル・ケイシングが出版した『We Never Went to the Moon: America‘s Thirty Billion Dollar Swindle』という本がきっかけで知られることになりました。その後勢いを増して拡散し、陰謀論の中でもメジャーな話になっています。火星ミッションを偽装するというNASAの架空の陰謀に焦点を当てた映画「カプリコン・1」(1977年)は、陰謀論者たちから高い支持を得ました。初の有人火星探査船カプリコン1号に打ち上げ直前トラブルが発生、3人の飛行士は国家的プロジェクトを失敗に終らせないため、無人のまま打ち上げられたロケットをよそに地上のスタジオで宇宙飛行の芝居を打つ事ことになります。NASAが仕組んだ巨大な陰謀談を、SF映画といったジャンルを超越して極上のエンターテインメントに仕上げた名作です。

 

また、1989年にはSFオカルト・ホラー映画「ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン」が公開されました。2022年、核武装衛星の修理を任務とする宇宙船スペースコア1号は、月の裏側で原因不明の機能障害を起こし、漂流してしまいます。そこで目撃したのは、なんと30年前の1992年に行方不明となったスペースシャトルでした。中には死後まもなくの乗組員がおり、腹部には正三角形の穴が空いていた。そして何かが宇宙船に侵入してくる・・・・・・。バミューダ三角地帯ネタを、「エイリアン」調に味付けした作品です。“何者か”が誰に乗り移ったかが判らないところが見どころです。「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」のグレッグ・バーランティ監督は、「カプリコン1」と「ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン」に多大な影響を受けたことは間違いないでしょう。そして、もう1本重要な作品があります。アポロ11号着陸映像は捏造で、スタンリー・キューブリック監督が製作したらしいという都市伝説の裏側を描いたコメディ映画が「ムーン・ウォーカーズ」(2015年)です。

 

「ムーン・ウォーカーズ」は、「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれた60年代の若者カルチャー全盛のロンドンを舞台に、借金まみれのダメ男(ルパート・グリント)とタッグを組んで世紀の捏造計画に挑むCIA諜報員(ロン・パールマン)のドタバタ模様を描きます。CM界で活躍するアントワーヌ・バルドー=ジャケがメガホンを取りました。1969年、なかなか月面着陸を成功出来ないNASAを見かねた米政府は、キューブリック監督に月面着陸映像の捏造を依頼するため、CIA諜報員・キッドマンをロンドンに送り込みます。しかし、ベトナム戦争帰りで映画に詳しくないキッドマンは、偶然キューブリックのエージェントオフィスにいた借金まみれのダメ男・ジョニーに莫大な制作費をだまし取られます。ロンドンのギャングやヒッピー、そしてCIAまでもが入り乱れる中、2人は計画の成功を企むのでした。

 

映画「ムーン・ウォーカーズ」では、密命を帯びた諜報員キッドマンがハリウッドの大物プロデューサーに扮して60年代のイギリスに降り立ちます。ちょうどキューブリックの「2001年宇宙の旅」(1968年)が公開されており、これを観たCIAの高官が「内容は意味不明だが、この映像は見事だ」と高く評価し、キューブリックに白羽の矢が立ったのでした。これはいわゆる冷戦期における保険のようなものでした。万が一にもアポロ11号が月面着陸に失敗した場合に備えて、あらかじめ彼に差し替え映像を捏造してもらおうというわけです。しかも「プロジェクトに関わった者は全て抹殺せよ!」とのお達し付きでした。「カプリコン・1」をコメディ化したような設定ですが、同作のメガホンを取ったピーター・ハイアムズ監督は1984年に「2001年宇宙の旅」の続編映画「2010」の監督に抜擢されています。いくらでも深読みできるシュールな展開ですね。事実は小説より奇なり!

 

キューブリックが月面着陸の捏造映像を作成したというのはまったくのデマですが、なぜ、こんな都市伝説が生まれたのか? それはひとえに彼の「2001年宇宙の旅」がSF映画史に燦然と輝く大傑作であり、そこに描かれた宇宙の映像がリアルであり、かつアポロ11号の月面着陸の前年にあたる1968年の公開だったからでしょう。キューブリックが月面着陸の捏造に関わっているという都市伝説は今でも多くの人間が信じていますが、キューブリックの娘であるヴィヴィアン・キューブリックは完全に否定しています。彼女によると、多くの人が「キューブリック監督が月面着陸の捏造映像を作ったのではないか」と聞いてくるといいます。捏造映像を作っていないという明確な証拠を出すことは難しいため、今後も捏造映像説を信じる人は消えないでしょう。映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の中で、なかなか言うことを聞かないゲイの映画監督に振り回されるケリーが「キューブリックに頼めば良かった!」というシーンがありますが、これは明らかに陰謀論者たちへの皮肉ですね。というわけで、月狂いのわたしにとって「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」は大変楽しい映画でした。では、Tonyさん、また次の満月まで!

 

2024年7月21日 一条真也拝

 

一条真也ことShinさんへ

「グリーフケア」広報マンとしての八面六臂のご活躍、何よりです。

それに対して、わたしの方は、前々回、前回につづき、今回第233信も遅れに遅れてしまいました。ごめんなさい。申し訳ありません。もう、言い訳は成り立ちませんね。お詫びするほか、ありません。ほんとうに、ごめんなさい。

この間も、いろいろな催しがありました。

1,7月15日~樂園学会芸術展 7月15日(月・祝)~24日(水)入場料無料
2,樂園学会第3回大会 7月20日(土)・21日(日)有料 樂園学会第三回大会
3,大重祭り2024 7月22日(月)無料 大重祭り2024 | Peatix

これらは、すべて、京都市左京区の京都芸術大学で行ないました。おもろく、あやしく、まことに、まっとう、でした。

わたしは樂園学会芸術展に、①出口なおのお筆先、②出口王仁三郎の耀碗「瑞雲」、③出口王仁三郎の画「巌上観音」(掛け軸)、③鎌田東二作詩「いのちの帰趨」(彫刻)の4点を出品し、7月21日の樂園学会茶会の亭主をつとめ、翌22日の「大重祭り」の司会進行をつとめました。

 

それから、7月28日には、代々木鎮座の平田神社主宰の「平田篤胤学校氣吹舎」学頭として、第7回目の講義をしました。

来年、平田篤胤生誕150年、逝去100年の節目に当たりますので、平田篤胤学校の講義をもとにし、令和7年(2025)11月3日の例大祭に合わせて、平田龍胤平田神社宮司さんと、平田篤胤を読み直す共著本を出す予定です。

4,平田神社「平田篤胤学校氣吹舎」平田篤胤講義第7講 2024年7月28日

7月末の31日の夜には、ヘルダーリン研究会が7月7日に発行した同人誌『あごら』創刊号合評会をやりましたよ。おもろかったし、いろいろと、広く、深く、考えさせられました。とても。

『あごら』巻頭の小泉友美さんの神秘小説(「神秘詩・形而上学詩」という評価もありました)は、たいへん評判がよかったです。

ヘルダーリン研究会発行『あごら』創刊号、2024年7月7日午後7時発行

http://waza-sophia.la.coocan.jp/data/24070701.pdf

5,7月31日:ヘルダーリン研究会発行『あごら』創刊号合評会:

8月4日には、京都大学稲盛財団記念館3階大会議室で「京都伝統文化の森推進協議会第41回セミナー」を開催しました。

 

 

また、8月6日には、京都府亀岡市大本本部の「天恩郷」で行なわれた「歌祭」と、翌8月7日開催の「瑞生大祭」に参列しました。

この記念すべき刻に合わせて、ロンドン在住のチャールズ・ロウさんの著書『神が喜ぶ音楽』(国書刊行会、2024年8月6日刊)が出版されました。

6,大本「歌祭」@亀岡・天恩郷 2024年8月6日18時~19時30分

7,大本亀岡・天恩郷「瑞生大祭」2024年8月7日10時~12時

ところで、おととい(8月8日16時43分)、昨日(8月9日19時57分)と、震度6弱、5弱の地震が宮崎と横浜で起きましたね。

これまで、もう、いやになるくらい、「オオカミ少年」以上「クマ老人」のように、地震を含め、「自然災害多発」とその準備・覚悟・対策・防災省設置の必要をくりかえし訴えてきましたが、もう、いまさら、「防災省」を作っても遅いよ! とおもいます。

それは、自然災害がニンゲンの「思わく」を遥かに超えていくからです。

しかし、わたしたちは、そのなかで、それとともに、いきていくほかありません。

どのような苦難にみまわれても、笑い、ユーモア、思いやりをわすれずに。また、シェアリングを忘れずに。

年内に、1970年来の畏友の医師・長谷川敏彦三との対談集『日本復興計画』を出す予定で、おととい初校ゲラを返送し、昨日、「まえがき」を書いて版元編集部に送りました。「日本復興」というか、『古事記』的には「むすひ~修理固成」が不可欠だとおもっていますが、このままでは、防衛費増大、インボイス制度などで弱い者(中小事業者・低所得者・「ガン遊詩人・神道ソングライター・神仏習合諸宗協働フリーランス神主」を含むフリーランス自営者)いじめに突進していくこの国は、いよいよ、「日本衰滅・日本沈没」に向って急速墜落していますね。

きょうは、これから、比叡山に登拝します。東山修験道929回目。

去年の今時分(2023年8月11日)、比叡山山中で、クマに襲われた女性トレイルランナーと遭遇したのでした。

◆京都新聞2023年9月2日朝刊記事「比叡山山中でクマと遭遇、負傷」 (pdf 1MB)

動画リンク:https://youtu.be/d85ddxim3sk
ファイル名:東山修験道876 堤冬樹京都新聞記者とクマ出没被害の道を検証した 2023年8月31日

ムーンサルトレター222信:https://moonsault.net/?p=6169

2024年8月10日 鎌田東二拝

 

そんななか、わたしは、「ガン遊詩人・神道ソングライター・神仏習合諸宗協働フリーランス神主」である自分にできることを、たんたんとやっていきます。それしかありませんので。

 

来月、9月6日の19時半からは、「第96回身心変容技法研究会」をおこないます。24歳で夭折した北方小樽出身の詩人佐川ちかに焦点を当てます。

第96回身心変容技法研究会
テーマ:「文学と病いと身心変容」 Zoom開催
日時:2024年9月6日(金)19時30分~22時
19時30分 開会あいさつ・趣旨説明・発表者紹介 鎌田東二(司会進行、5分)
19時35分~20時45分 永井敦子(上智大学教授・副学長・フランス文学)「佐川ちかの詩と身心変容のイマージュ」(仮題)発表70分
20時45分~22時 (75分)
コメンテイター:鶴岡賀雄(15分、東京大学名誉教授・宗教学・神秘主義研究)
コメンテイター:津城寛文(15分、筑波大学名誉教授・宗教学・歌人【日守麟伍】)
討議・意見交換 (85分)
司会進行・総括:鎌田東二

佐川ちかの『殻』という語が「身心変容」のキーワードだとおもっています。

 

「昆虫」

昆虫が電流のやうな速度で繁殖した。
地殻の腫物をなめつくした。

美麗な衣裳を裏返して、都会の夜は女のやうに眠つた。

私はいま殻を乾す
鱗のやうな皮膚は金属のやうに冷たいのである。

顔半面を塗りつぶしたこの秘密をたれもしつてはゐないのだ。

夜は、盗まれた表情を自由に廻転さす痣のある女を有頂天にする。

『左川ちか詩集 』(岩波文庫) (p.13)

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その翌日の9月7日(土)には、NPO法人東京自由大学の以下の催し「宗教を考える学校」2024年度第3回を行ないます。

https://peatix.com/event/4072293/view

9月23日には、奈良市の「曼荼羅御堂八百萬之茶屋」で、神明PさんやKOWさんと以下のライブをおこないます。

 

また、10月12日には能登半島の穴水町の千手院で、「第8回いのちの研究会」を行ないます。

第8回「いのちの研究会」 プログラム

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第8回いのちの研究会案
テーマ「災害に向き合う」
日時;2024年10月12日(土)13時~16時30分
会場;石川県鳳珠郡穴水町曽良 高野山真言宗海臨山千手院 (午前中10時~11時半まで)は千手院のカフェデモンクのお手伝い)

第一部
13:00 開会 司会 鎌田東二
住職挨拶:北原密蓮(僧侶)、読経:」ありがとう寺住職町田宗鳳
奉納演奏 石笛・横笛・法螺貝 鎌田東二
13:15 トーク①町田宗鳳(広島大学名誉教授・ありがとう寺住職)
13:35 トーク②島薗進(東京大学名誉教授、2024年「朝日賞」受賞者)
13:55 トーク③加藤眞三(慶應義塾大学名誉教授)
14:15 トーク④上田紀行(東海学園大学特命副学長・東京工業大学卓越教授)
14:35-14:45 (休憩)

第二部
14:45 総合討論 司会 鎌田東二
パネリスト:上記4名+森本敬一(NPO法人チーム能登くいしん坊会長)、小西賢吾(京都大学人と社会の未来研究院准教授、オンライン参加)+桑野萌(金沢星稜大学准教授)+井川裕覚(東北大学助教・ケア学・災害人文学・関東臨床宗教師会会長)
質疑応答 会場やオンラインから質問
15:55 閉会挨拶 鎌田東二
16:00 閉会

上田紀行;東海学園大学特命副学長、東京工業大学特命卓越教授
著書;『生きる意味』(岩波新書)、『立て直す力』(中公新書ラクレ)、『覚醒のネットワーク』(アノニマ・スタジオ)、『かけがえのない人間』(講談社現代新書)、『愛する意味』(光文社新書)、『とがったリーダーを育てる』(中公新書ラクレ)、『平成論』(NHK出版新書)、『スリランカの悪魔祓い』(講談社文庫)、『「自殺社会」から「生き心地の良い社会」へ』(講談社文庫)、『今、ここに生きる仏教』(平凡社)、『人生の〈逃げ場〉 会社だけの生活に行き詰まっている人へ』(朝日新書)、『人間らしさ 文明、宗教、科学から考える』(角川新書)、『新・大学でなにを学ぶか』編著:東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教員13名(岩波ジュニア文庫)

島薗進;東京大学名誉教授、上智大学大学グリーフケア研究所元所長、NPO東京自由大学学長
著書;『現代救済宗教論』(青弓社)、『精神世界のゆくえ』(東京堂出版、秋山書店)、『いのちの始まりの生命倫理』(春秋社)、『国家神道と日本人』(岩波書店)、『日本人の死生観を読む』(朝日新聞出版)、『つくられた放射線「安全」論』(河出書房新社)、『倫理良書を読む』(弘文堂)。『ともに悲嘆を生きる グリーフケアの歴史と文化』(朝日新聞出版)、『新宗教を問う 近代日本人と救いの信仰』(筑摩書房)など

町田宗鳳;広島大学大学院名誉教授、国際教養大学客員教授、御殿場高原ありがとう寺住職
著書;『法然対明恵』(講談社)、『人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉―』(日本放送出版協会)、『法然の涙』(講談社)、『法然、愚に還る喜び―死を超えて生きる―』(日本放送出版協会)、『ニッポンの底力』(講談社)、『あそぶっきょう』(サンマーク出版)など。日本・アメリカ・ヨーロッパ・台湾などで「ありがとう禅」、「ありがとう断食セミナー」(御殿場市)、および「パワートーク:Dr.Soho &達人たち」(東京)を開催

加藤眞三;慶應義塾大学名誉教授、上智大学グリーフケア研究所客員所員、MOA高輪クリニック院長
著書;「肝臓病教室のすすめ」メディカルレビュー社、「患者の生き方;よりよい医療と人生の「患者学」のすすめ」春秋社、「患者と作る医学の教科書」(共著)日総研 、「患者の力;患者学で見つけた医療の新しい姿」春秋社、「肝臓専門医が教える病気になる飲み方、ならない飲み方」ビジネス社。その他、東洋経済オンラインにて「市民のための患者学」を、雑誌「医と食」において「医療者のための患者学」を、沖縄難病連雑誌アンビシャスにおいて「患者のための患者学」連載中

鎌田東二;京都大学名誉教授、天理大学客員教授、日本臨床宗教師会会長、京都伝統文化の森推進協議会会長
著書;『神界のフィールドワーク』(青弓社)、『身体の宇宙誌』(講談社学術文庫)、『宮沢賢治「銀河鉄道の夜」精読』(岩波現代文庫)、『霊性の文学 言霊の力』『霊性の文学 霊的人間』(いずれも角川ソフィア文庫)、『日本人は死んだらどこへ行くのか』(PHP新書)、『世阿弥』『言霊の思想』(いずれも青土社)、『夢通分娩』『狂天慟地』『絶体絶命』『開』(土曜美術社出版販売)、『いのちの帰趨』(港の人)、『南方熊楠と宮沢賢治 日本的スピリチュアリティの系譜』『予言と言霊 出口王仁三郎と田中智学ー大正十年の言語革命と世直し運動(平凡社)、『悲嘆とケアの神話論―須佐之男と大国主』(春秋社)など

ところで、能登半島の穴水町で臨床宗教師の上記北原密蓮さん(千手院新住職)が中心となり、「カフェデモンク穴水」が活動を続けています。

2024年7月30日付朝日新聞デジタルに、その様子が以下のように掲載されました。
https://www.asahi.com/sp/articles/ASS7Y4KFGS7YPJLB00KM.html

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なお、前にもお伝えしましたが、「能登学プロジェクト」メンバーのジャーナリスト、藤井満さん(元朝日新聞記者、輪島支局4年間勤務)が書いた以下のサイトのコラム記事「月刊 風まかせ」をぜひお読みください。
https://kazemakase.jp/2024/03/noto7sora/

今年のお盆、2024年8月14日には、千手院で「復興の灯」スカイランタン&キャンドルスカイの復興イベントがおこなわれます。応援してください。同日には、「能登学プロジェクト」の第4回目のミーティングを現地とつないで行なう予定です。なお、このプロジェクトリーダーは小西賢吾さん(京都大学人と社会の未来研究院特定准教授、文化人類学・縁の人類学)、同サブリーダーは桑野萌さん(金沢星稜大学准教授、カトリック神学・身体哲学)